当然、社長候補の1人でしたが、ホリエモンによるニッポン放送買収問題の窓口となり、責任をとる形で子会社の共同テレビへ社長として出向、そして相談役となり、ある日唐突に辞めました。そして、なんと70歳を過ぎて舞台役者になったのです。私も「年寄りの暇つぶし」くらいに思っていたのですが、他局の日本テレビ系ドラマ『ハケンの品格』で社長役を演じるなど、今や完全なプロの役者となりました。

フジテレビはもともと
「若い才能」を伸ばす会社だった

 このように、フジ゙テレビには若い才能を伸ばす能力のある人が多かったのです。山田氏の密着をしていて、フジテレビのある「仕掛け」を知りました。エレベーターに乗ると、動画が映るモニタが壁面に取り付けてあります。エレベーターだからゆっくり見る余裕はないので、「あれは何ですか?」と聞くと、「全社員が自分でやりたい作品をこのエレベーターのモニタにオンエアさせるんです」とのこと。それを見た社員がいいと思った動画は、実際に作品化されるそうです。

 社員全員の企画をどう汲み上げるか。これが、コンテンツ会社を経営する醍醐味だと思うのですが、残念ながら現在のフジには、かつて見た動画のようなチャレンジ精神が感じられません。あのモニタこそ、フジの自由な社風を支える象徴だったように思います。今回紹介した就活生の言葉は、今のフジテレビ幹部に届くでしょうか。

 さて、最後に元週刊誌編集長の立場ではなく、私が文春退社後に参加した危機管理会社リスクヘッジの元役員として学んだことを、フジテレビの幹部に申し上げたいと思います。

 私なら、第三者委員会の設立は当然のこととして、調査結果が出るまでの応急措置として、次の2つの手段をとり、生半可な考えで改革に取り組んでいないことをアピールするべきだと考えます。

(1)コンプライアンス部の上部に人権擁護局を設置し、内外の問題点について、すぐに社員が駆け込める場所をつくることを宣言する。

(2)社外の人間と会社の外で面会することを絶対禁止とし、規則を破った社員には処分を行い、規則を破ったタレントなどの外部の人間には、次から番組に起用しないことを通告する。

 そして、清水賢治新社長はこの一言だけは宣言するべきです。それは、被害女性が一生安心して暮らし、人生の夢を実現できるよう、サポートし続けることです。残念ながら、この発言はフジの記者会見ではまだ出てきません。

(元週刊文春・月刊文藝春秋編集長 木俣正剛)