この変革には二つの新しさがある。

 第一に、ものづくり中心の企業がデジタル分野へと転換を進めている点である。

 第二に、これまで垂直統合型で内製を重視してきたが、近年は外部と連携する戦略へとシフトしている点である。日立やソニーグループは、これらの変革を恐れずに推し進めてきたことが、現在の好業績につながっていると言える。

エンジニアでありながら
収益化の仕組みを理解する

 かつては家電事業が電機業界の中心的な収益源であり、家電と重電といった明確な区分が存在していた。しかし、現在では「デジタルと社会インフラ」(日立)、「エンターテインメントとテクノロジー」(ソニーグループ)といった新たな切り口が生まれ、各社が独自の戦略を打ち出している。

 そのため、電機業界も従来のような単純なグルーピングが難しくなりつつある中、ビジネスの理解を持つエンジニアの重要性がこれまで以上に高まっている。

 現在の電機業界には、さまざまな技術や業種を統合し、最適な形でインテグレーションできる力が求められている。そのため、単に特定の専門分野に精通しているだけでは不十分であり、専門性に加えてビジネスと統合する能力が不可欠だ。

 エンジニアでありながら、技術を収益化する仕組みを理解し、どのようなストーリーで利益を生み出すのかを論理的に考えられる力が、今後さらに重要になっていくだろう。

 ソニーグループの例でいえば、ソニー・ミュージックエンタテインメントに所属するアーティストが、従来のようにCDの売り上げ向上だけを目的とするのではなく、アニメとのコラボレーションによってアニメファンを音楽に誘導し、逆に音楽ファンをアニメに引き込む戦略を展開している。

 これにより、両分野が相互に収益を生み出す仕組みが確立している。また、メタバースなどの最新技術を活用し、音楽の体験価値を向上させる取り組みも進めている。

 このように、一つの事業領域に閉じるのではなく、さまざまな分野を統合しながらシナジーを生み出す力が、現代のビジネスにおいては不可欠なのだ。