そして、レジェンドたちは当然に現役選手たちよりも年上、あるいは故人ですが、彼らに対して、「先人」だから、「大先輩」だからと無条件に強く尊敬する雰囲気も感じられません。批判も行います。しかし日本であれば、大記録を残したレジェンドに対してわざわざ批判するようなことはないでしょう。そこには、あくまで野球というスポーツを通しての尊敬や敬意があり、記録をリスペクトしているのであって、年齢について重く考えていない、というアメリカのスタイルが見えてきます。

 なぜこんなことが気になるかというと、実は私自身にも、アメリカでの生活で強く記憶に残っているエピソードがあるからです。

年齢を重視しないアメリカ社会
なんで年齢を聞くのか疑問

 30代の半ばから40代初めの時期、アメリカに渡っていた私は、恐らく自分よりも10歳前後若い連中と混じって研究にいそしみました。その中でも、普段は研究に関する話と、ばかみたいな冗談を言い合っていた人が次のステップに進んだりするなど、出会いや別れがありました。

 私自身が日本に帰国する前にも、多くの人と別れを惜しみました。私はある若い研究者と仲良くしていました。彼とお別れするタイミングで、私は以前から気になっていたことを、本当に何気なく聞いてみました。

「ところで、前から聞きたかったんだけど、キミって何歳なの?」

 少し空気が変わったのを感じました。彼は、何だか不思議そうな顔で私を見て、こう言いました。

「トシ、なんでそんなこと聞くの?」

 不快に感じた、というより、聞かれた意図がわからない、というニュアンスでした。反面私は、うっかり聞いてしまった自分を少し恥じました。

 彼らは年齢をほとんど気にしていません。面白ければ笑うし、違う考えがあれば臆せず話し、反対意見があればしっかり述べます。当然、米国在住中に、日本人の常套句、「どこの大学出身ですか?」というセリフも一切聞きません。

 その上で、私との関係は、ともに研究している医師同士、あるいは科学者としての仲間同士のものであって、私たちがサイエンスの世界に生きていることが前提です。

 一般的に年齢をあまり気にせずに生きているアメリカ人ですが、科学の世界ではなおさら関係ありません。すごい研究をし、画期的な発明をし、価値ある論文をものにした人が、その価値の分だけ尊敬されるからです。