従来、日本マクドナルドはその“低価格”を武器に、「安く食事をする場所」として市場の支持を得てきました。そこから「しっかりと食事を楽しむレストラン」や「心地よく過ごせるカフェ」へとポジションを転換していきました

 その取り組みの一つが、2018年から始まった「夜マック」です。夕食需要をターゲットに、通常商品のボリュームを倍増させた「倍バーガー」や、家族や友人と楽しめる「ポテナゲ特大」など、夜限定の商品を提供しました。これは、夜にしっかり食事をしたい家族や、大切な友人と楽しいひとときを過ごしたい人々のニーズを取り込んだものと考えられます。

 また、「マックカフェ」の進化も見逃せません。1998年に始まった「マックカフェ」は、2012年に「McCafe by Barista」として刷新され、店舗内にカフェ専用のカウンターを設置。専任のバリスタが本格的なコーヒーを一杯ずつ丁寧に提供するという、より高品質なカフェ体験を実現しました。

 2023年には「本気カフェ宣言」を掲げ、「プレミアムローストコーヒー」のリニューアルや、フラッペ、スムージー、マカロンなどの新たなカフェメニューを全国店舗で展開。これは、ファーストフード業界の枠を超え、カジュアルながらも本格的なカフェ体験を提供する新たな価値を提供していると言えます。

 さらに、都心部を中心に店舗の内装を刷新し、洗練されたデザインの空間を提供。モバイルオーダーやアプリクーポンの活用、セルフオーダー端末の導入なども推し進め、快適で便利な体験を築き上げています。こうした取り組みは「心地よい空間」や「便利なサービス」といった新しい軸での差別化を実現し、「低価格」というイメージを刷新する狙いがあると考えられます。

 日本マクドナルドが行った大胆なポジション転換は、単なる価格戦略の見直しにとどまらず、顧客体験そのものを再定義するものでした。

 読者の皆さんの会社は、自社のポジションを定期的に見直せているでしょうか? ポジショニングは、取り巻く環境や顧客ニーズの変化にあわせて柔軟に見直し、進化させていくことが大切です。円安や物価高騰の影響で価格ばかりに注意が向いてしまい、肝心の自社のポジションがどうあるべきかを見失っていないでしょうか。

 顧客に対して、どのようなポジションを打ち出し、どのような価値を提供していくのか。今一度、自社のポジショニングや提供価値を見直し、新たな視点で戦略を練り直してみてはいかがでしょうか。