多くの専門家が指摘しているが、この説の大前提である「米自体は足りている」という農水省の主張自体がどうにも疑わしいからだ。

 今回の米高騰のきっかけは昨年8月に、スーパーの棚から一斉に米が消えた「令和の米騒動」だ。これは前の年の猛暑の影響もあってコメの供給量がシンプルに減少したことで発生した。

 農水省によれば、23年秋の主食用米の収穫量は661万トン。しかし、これに対して需要は705万トンもあったので「40万トンの米不足」が起きていた。それが24年春から徐々に露呈して、夏にはついに店頭からコメがなくなったというわけだ。

 それをうかがえるのがコメの在庫量だ。農水省の「民間在庫の推移」を見ると、昨年7月は82万トン。その前年7月の在庫は123万トンなので、41万トン少ない。確かにこちらから見ても「40万トンの米不足」なのだ。

 ただ、問題はここからだ。この時期、農水省は「9月になって新米が出回れば米不足は解消します」と盛んにアナウンスをしていたことを覚えているだろう。吉村弘文大阪府知事が備蓄米放出を要請しても、「全国的に見れば需給ひっ迫にない」としてあっさり却下した。

 しかし、冷静に考えればそんなうまい話などあるわけがない。9月に出回る新米というのは基本的に10月から食べ始めるものだ。では、例年9月に我々が食べている米はどういうものかというと8月に出回っているものだ。しかし、今回は8〜9月の時点ですでに「40万トンの米不足」に陥っているのでそれがない。つまり本来は10月に食べ始めるはずの新米を、農水省は9月に「先食いしろ」と言っていたのだ。

 これが問題の「先送り」でしかないことは、先ほどの「民間在庫の推移」がすべてを物語っている。24年7月の在庫が前年に比べて41万トン少ないことは述べたが、9月になるとどうなるかというと、前年比で50万トンも少ない。10月は44万トン、11月は43万トン、12月が44万トンとほぼ同じ状況が続く。

 つまり、農水省は新米が出回ればすべて解決みたいなことを言っていたが、なんのことはない民間在庫的には「40万トンの米不足」が昨年7月からずっと継続していたというワケだ。