トヨタ自動車が、農業界のプラットフォーマーを目指していることはあまり知られていない。特集『儲かる農業 攻める企業』(全17回)の#7では、トヨタ自動車の農業事業責任者の喜多賢二さんに、農産物の生産から消費までを一気通貫で支援することで利益を得る「プラットフォーマーへの野望」について語ってもらった。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)
「ジャストインタイム」「かんばん」など
トヨタ生産方式をフル活用して儲かる農業をサポート
――トヨタ自動車で農業事業を任されるのは珍しいことだと思います。喜多さんは社内で手を挙げて農業事業を担当したそうですが、なぜですか。
私の実家は農家です。長崎県の壱岐という島で子牛とコメを生産しています。父にはこだわりがあって、コメ作りを機械化していません。まず(収穫するための)コンバインがない。竹で足場を組んではざ掛け(刈り取った稲を天日で干すこと)をして、干した稲から脱穀機でもみを取るという昔ながらのスタイルなんです。これを高校卒業まで毎日のように手伝っていたから、生産現場に入ることに違和感がない。そんなわけで、トヨタが農業の事業を始めるに当たって、トヨタと農業との間の“通訳”の役割を任せてもらったのです。
――そもそも、なぜトヨタが農業関連事業をやっているのですか。
地域を支える重要な産業である農業に貢献するためです。トヨタは「いい町・いい社会づくり」という方針を掲げています。2011年から農業の課題を調べ始めました。すると、野菜とか畜産とかいろんな種類がある中で、コメがちょうど変革期にあることが分かった。
その変化を一口で言うと、急速な大規模化です。高齢化が進み、農業をやれなくなった人から農地を引き受ける農家が規模を拡大していた。そういった農家は、家族以外の従業員を雇わなきゃいけないとか、農地をどう管理するかとかでお困りでした。
ちょうど変革期で、お困り事がある。そして、日本の主食であるコメから取り組もうと社内で提案したのが、この取り組みのきっかけです。
まず、農家のお困り事を勉強しようと愛知県の鍋八農産さんに伺いました。ただ見ているだけでは邪魔になるので、一緒にコメの生産プロセスを改善することにしました。「原価は幾らですか」といういかにもトヨタらしい質問をすると「分からない」というお答えだった。そのため、生産工程を見える化し、原価を把握してみることになりました。1年間かけて、生産工程をビデオで撮るなどして記録していきました。
――それは鍋八農産も驚いただろうし、大変だったでしょうね。
はい。相当びっくりされたと思います。本当にストップウオッチやビデオカメラ、時にははかりやメジャーを持って田んぼを測りながら、徹底的に調べました。そうするうちに現場の課題がくっきり見えてきました。