デジタル化が畜産を激変させている。トヨタ自動車やNTTが畜産農家向けの事業を行う他、パナソニックも近く同事業に参入することが分かった。特集『儲かる農業 堕ちたJA』(全17回)の#2では、沸騰する畜産の最前線に迫った。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)
養豚の世界市場は40兆円
ファーウェイも畜産DXに参入
4月に愛知県で開かれた畜産の展示会に突然、仕立ての良いスーツを着た10人ほどの集団が現れた。来場者の多くは畜産農家やその関係者。その中で異彩を放つスーツの集団の正体は、パナソニックグループ幹部らだった。異業種の企業幹部が連れ立って視察するとは尋常なことではない。
実は、その目的は畜産のデジタルトランスフォーメーション(DX)事業への参入に向けた視察だった。パナソニックはどのように畜産DXで稼ごうとしているのか。
その本題に入る前に、大企業にとってなぜ畜産が“おいしい”業界なのかを解説しよう。
畜産DXに企業の参入が相次ぐ理由は、世界的に巨大な市場があること、生産性の改善余地が非常に大きいこと、という2点に集約される。例えば、養豚の世界市場は40兆円に上るが、生産性は極めて低い。上物とされる体重96~116キロの豚は出荷頭数の50%未満で(日本食肉格付協会豚枝肉格付結果より)、しかもこの数値は30年間、ほとんど改善していない。
自動車や家電などの生産現場でカイゼンを重ねてきた製造業からすれば、畜産業界の“伸びしろ”はビジネスチャンスに映る。畜産業界は“垂ぜん”の顧客なのだ。
日系では製造業の他、NTT西日本やNTTデータが、中国では通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)などが養豚DXのビジネスを始めており、世界的な投資バブルが起きている。
パナソニックの新規参入に話を戻そう。同社の戦略は、パナソニックグループ幹部が展示会で視察したブースの内容から知ることができる。両者が視察した“畜産DXの成長株”とはどのような企業だったのか。