愛媛県大洲市。こののどかな街に、就農を希望する若者が殺到している企業がある。楽天農業だ。2016年に楽天の出資を受け、オーガニック野菜で作るカットサラダをヒットさせて急成長を遂げたが、若者を引き付けてやまない魅力は、ありきたりな6次産業化(農業従事者が食品加工や流通販売まで展開すること)だけにあるわけではない。特集『儲かる農業 攻める企業』の#4では、前身のテレファームの創業者で、楽天農業でも代表を務める遠藤忍さんが生み出したITと農業を融合させた“奇想天外な販売ツール”など、楽天農業の特異な発想力についてレポートする。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)
社員が昨年から倍増!
若者が殺到する農業法人
「入社希望者はたくさんいるから、リクルートには困らない。けれど、入社した社員の住む場所が本社の周りに足りないんですよね……」
松山空港からバスで約1時間揺られてようやくたどり着く愛媛県大洲市。こののどかな街には、住宅の需給バランスを崩してしまうくらい社員を激増させている農業法人がある。楽天の100%子会社、楽天農業だ。レタスや小松菜といったオーガニック野菜で作るカットサラダをヒットさせ、急成長を遂げた。
首都圏のサラダの需要に応えるため、2019年には物流費を抑えながら新鮮なまま野菜を届けることなどを目的として静岡県に50ヘクタール以上の土地を確保。カットサラダ工場も建設する。本拠地の愛媛県内では、撤退する食品メーカーの事業を事実上譲り受ける形で冷凍野菜事業にも本格進出した。
農場で働く社員は、誰も彼も若く活気に満ちている。社員数は昨年から50人増えて約110人へと倍増し、この4月にも新卒の新入社員が14人加わった。
中山間地の荒れ地を次々と開墾し、08年にゼロだった経営面積は合計65ヘクタールまでに拡大している。もはや楽天は立派な「豪農」だ。農業に参入した企業は、資本力を生かした設備投資とM&A(企業の合併・買収)で農業再生を主導しているが、楽天はその筆頭格である。
しかし実はこの楽天農業、手掛けているのは「農作物を育て、加工して売る」という、ありきたりな6次産業化(農業従事者が食品加工や流通販売まで展開すること)だけではない。むしろ、前身であるテレファームが楽天の目に留まったのは、「バーチャルで野菜を育てると、それに連動してリアルの野菜が届く」というゲーム感覚の農業サービス「遠隔農場テレファーム(現Rakuten Ragri〈ラグリ〉)」を展開していたからこそだ。