筆者もSNSのキャンペーンなどの内容を見て、「これはリスクが高いので考え直したほうがいい」とアドバイスをすると、マーケティング担当者から「炎上を怖がっていたら何もできませんよ」と反論されて押し切られることが多い。
確かに、そういう確信犯的な発想ならば今回の動画も「成功」だ。すぐに削除に追い込まれてしまったが、バズることにはバズった。ニュースとしてだが、メディアに取り上げられた数もハンパではない。地味で当たり障りのない郵便局のほのぼのドラマ動画に比べたら、はるかに費用対効果は高かったと言える。
そして、もうひとつの可能性が「内部のゴタゴタで危機管理意識が乏しくなっていた」ということだ。実は今回、動画を制作した日本郵政からすれば、PRすべき「郵便局ネットワーク」はぶっちゃけかなりの「お荷物」だ。
日本郵政グループで郵便事業を担う日本郵便の営業損益は、2022年度に民営化して以降、初めて赤字に転落した。翌年度の2023年度は、赤字は896億円に拡大。2024年4〜9月の中間決算でも営業損益は、947億円にまで膨れあがっている。
つまり、赤字をタレ流す「郵便局ネットワーク」というのは、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の好調さでどうにか支えてもらっている、というグループ内でも非常に肩身の狭い状態なのだ。
だから、グループを仕切る日本郵政としては「郵便局ネットワーク」のテコ入れに乗り出さざるを得ない。そのひとつが、人気映像集団とコラボした「バズりドラマ」の制作だった。
ただ、ここで危機管理的に大きな「問題」が生じる。
日本郵便側は「お荷物」なのでグループ内でそれほど発言権はない。PRの戦略や動画制作に関しても日本郵政の意向がより強く反映されるようになったと考えられる。
一方、日本郵政としては、とにかく郵便局ネットワークを盛り上げることがミッションでそこに全力でフォーカスしているので、もともと日本郵便が抱えているリスクへの配慮など、細かなところまでのカバーができない。