このように郵便事業の赤字転落など内部がゴタゴタしたことで、「危機管理の死角」が生まれてしまった恐れがある。今回の「すっぴん動画」に関しても、その可能性は否定できないだろう。

 とにかく郵便局ネットワークを盛り上げて、日本郵便を赤字から脱却させることに組織全体が血眼になっている今、客を笑い物にしようが、配達員を装う犯罪があって被害者がいたとしても、それは「大事の前の小事」になってしまう。組織外の人間は「なんでそんなことに気づかない?」と首を傾げるだろうが、組織の内部にいると感覚が麻痺してしまうものだ。

 実は企業危機管理を長くやっていると、こういうパターンは珍しくない。というより、不祥事企業の「お約束」と言っていい。

 業績低迷や構造的に稼げない体質になってしまった企業というのは、「とにかく売り上げを上げるために手段など選んでいられない」と利益・結果を最優先にする。そして、「危機管理なんて一銭の得にもならないヌルいこと言ってんじゃねえよ」というムードが蔓延するのだ。

 そうなると面白いもので、誰かがとんでもない不正に手を染めたり、社会常識とかけ離れたような不祥事を起こしたりするモラルハザードが次々と起きていくものなのだ。

 実はその兆候は、日本郵便にも透けて見える。

 日本郵便近畿支社管内の複数の郵便局で、郵便物などの配送車の運転手に対する法定の点呼が適切に行われておらず、点呼記録の虚偽記載などの不正をしていたことも、マスコミ各社の取材で明らかになった。一部報道によれば、支社内の8割にあたる郵便局で法定の点呼をしていなかった。

 これは行政処分の対象にもなるもので、事態を深刻に見た日本郵便では、全国の郵便局を対象に緊急調査を始めたという。

 この原因についてはいろいろな考えがあるだろうが、筆者としては「貧すれば鈍する」ではないが、「郵便局ネットワークのブラック化」によるモラルハザードだと思っている。