『週刊文春』黄金時代の編集長の弁

 編集長になってからは経営から言われるワケのわからない要求に答えている「フリ」をしながら、対外的にはいかに自分の雑誌が素晴らしい雑誌かを吹聴し、さらには売り上げを伸ばしていかないといけない。

「世間的に素晴らしいこと」と「雑誌の売り上げ」はだいたい反比例してしまうものなので、その矛盾をどう解消するかにひたすら頭を悩ませることになる。

 悩みながらも新しいことを始めようとすると「こんなことプレジデントでやっていいのか」などと社内から突き上げを喰らう。

 それをなんとか説明しにいくと、今度はそれを見た部下が「本当にプレジデントとしてやってはいけないこと」を始めようとしたりする。ここで部下の意見を潰せば、自分のやりたいことだけは突き通し、部下の方は守らないのかという批判も当然出てくる。

 とはいえ、媒体として「やっていいこと」と「悪いこと」の基準を明示するのは本当に難しいものだ。現場に対して、上から一方的に方針を押し付けるようなことをしても、あまりいい結果を生まないのではないかという心配もある。

 1990年代に週刊文春の黄金時代をつくった花田紀凱氏(現在、月刊Hanada編集長)は「私が読みたいと思うもの、私が知らないこと」が掲載基準と言っていて、なるほどと思った。

 ただ、それにしたって、すべての基準の明示は不可能であろう。最終的には花田氏の人格を信じて、花田氏が面白いと思ったことを突き詰めていくしかない。この辺りの難しさは、出版だけでなくどの会社も抱えているのではないか。

ユニクロ柳井氏に「仕事の悩み」をぶつけたら…

 10年以上も前の話になるが、現場にいた私は(本当に好き勝手やっていたクセに)上の人が自分の意見を全然通してくれないのはおかしいと思っていた。そんな時、ユニクロを運営するファーストリテイリング会長の柳井正氏に、職場の悩みを相談するインタビュー企画を担当することになった(PRESIDENT 2011年1月17日号掲載)。

 なかでも私がひときわ感情移入したのが、〈29歳・女・派遣〉の相談。「経営方針の徹底は社員の個性を押し殺すことになるのでは?」というものだった。当時の私の悩みを代弁するような内容である。

 私はそのまま、柳井氏にぶつけた。