インドのカントリーリスクについて最大の判断基準となったのが、民主主義国であること。「現地の新聞を読むと、政府の予算などがしっかり書かれており、政策が手に取るようにわかる。ディスクロージャーが進んでいる国だと感じた」。

インドと日本で利益と人材を還元
『社長の好き勝手じゃない』と納得してもらう

 インドでどのようなビジネスを展開するか。現地のインフラを調査し、インドの全ての港湾の取扱量を合わせても中国・上海港に及ばず、道路整備も遅れており、「インドからの輸出は難しい」と考えた。

 一方、輸入は関税負担率が大きい。人口は豊富であるため、むしろエリアを限定して国内物流を展開する方がハードルは低い。インドは世界有数の農業国であり、日本でノウハウを蓄積したソーラー発電方式の定温倉庫を現地で建設し、食品ロス削減に貢献する――という事業を構想した。

 通常、物流会社は海外進出のリスクを小さくするために「荷主追随型」が大半だが、川崎陸送は「荷主ゼロ」からのスタート。「当社は営業倉庫であり、自ら荷物を集めるのが仕事。お客様が撤退したらおしまいではなく、リスクは自社の責任・管理下に置きたかった」(樋口氏)。

 川崎陸送の強みである定温倉庫・流通加工のノウハウ、樋口氏のサプライチェーンマネジメントの知見も活かし、インド事業は国際物流ではなく最初から国内物流をターゲットとし、ローカルの限られたエリアで「サプライチェーンをゼロからつくる」ことに挑戦した。

 母校のミシガン州立大学同窓会や樋口氏が参加するCouncil of Supply Chain Management Professionals(CSCMP)のネットワーク、JICA(国際協力機構)の補助事業を活用できたことも、リスクの最小化に役立った。社内には、「10年先を見据えての海外展開であることをしっかり説明し、日本で稼いだ利益をインドに投資し、インドから利益や人材を日本に還元する――という将来ビジョンを示し、『社長が好き勝手やってるわけではない』と社員に納得してもらう」(同)ことを意識した。