
米原子力発電大手ウエスチングハウス(WH)や日本航空の再建など、事業再生に強みを持つファームとして知られるのがアリックスパートナーズだ。同社は、祖業であるターンアラウンド・リストラクチャリング・サービス(TRS)を担う専門チームを1月に日本オフィスで新設した。新サービスの拡大の背景に何があるのか。長期連載『コンサル大解剖』の本稿では、WHの再建実績がある米国・アジア共同責任者のリサ・ドナヒュー氏にその狙いや内容を直撃した。さらに、日本代表の植地卓郎氏と、新たにTRSを率いるPwCコンサルティング出身の丹羽正氏らと合わせたトリプルインタビューをお届けする。(ダイヤモンド編集部 山本 輝)
祖業なのに日本で手薄だった
TRSサービスを新たに拡充
――これまで、アリックスパートナーズは日本において、一般的なコンサルに相当するアドバイザリー部門が主軸であり、ターンアラウンド・リストラクチャリング・サービス(TRS)の取り組みは祖業ながら手薄でした。今回、TRS分野の第一人者である丹羽正氏を迎えて、新たにTRSの専門チームを1月に立ち上げました。日本のTRSでは、どのような取り組みを考えていますか。
リサ・ドナヒュー氏:TRSは、ご存じの通り私たちの祖業であり、事業再生や経営再建などに取り組むものですが、私の定義ではこれに加えて、「トランスフォーメーション」という側面もあると考えています。TRSというのは、地域や対象企業によって意味が異なってくるのですが、日本におけるTRSは財務面での支援に加えて、オペレーション面での変革も重要になります。財務面、そしてオペレーション面での改革と、非常にホリスティック(総合的)なTRSの活動を進めていきたいと考えています。
植地卓郎氏:少し補足をしますが、TRSというと、財務的に逼迫(ひっぱく)している企業の再生をイメージされるかもしれません。ですが、アリックスとしては、アドバイザリーとTRSとを切り分けて考えるのではなく、どちらも融合的に着手するエンゲージメントを想定しています。
アドバイザリーがコンサル的な業績改善、すなわちオペレーションインプルーブメントを中心にやっていくものだとすると、TRSではオペレーションだけでなく、バランスシートの右側も深くサポートしていく。アドバイザリーとTRSのスキルセットを同時に持ち込むことで、どこにボールが落ちようとも支援できるというのがポイントです。リサの言った「ホリスティック」というのはまさにキーワードですね。
丹羽正氏:もう一点、日本のターンアラウンドと米国のターンアラウンドとでは、やはりニュアンスが少し異なるんですよね。米国のターンアラウンドで最も分かりやすいのが、連邦破産法、いわゆるチャプター11に基づいた再生です。
ですが、日本で民事再生法を使った再生案件の数は知れていますから、法的整理ではなくて私的整理が中心になります。例えば、株主たる本社が自社の事業会社や子会社にターンアラウンドを掛けたり、事業のリストラクチャリングを行ったり、あるいは海外のエンティティなどを閉鎖したりなどですね。そこの違いを押さえると、日本におけるTRSがアドバイザリーと融合的であることがイメージしやすいと思います。
ドナヒュー氏:やはりどのような困難を抱えている企業でも、財務だけ、もしくはオペレーションだけで課題を解決することはできません。表面上は財務的な問題にみえても、その下にオペレーション上の課題が潜んでいることはよくありますし、逆も同様です。
だからこそ、私たちはチームとして、それぞれの産業のドライバーを知り尽くした各業界のエキスパートを結集させるとともに、業界の中にある財務的な問題も深く理解できるファイナンスのエキスパートも持ち、両者を同じチームの中に入れることで各企業をサポートすることが重要だと考えているのです。
――今後、日本のTRSを担うチームはどれくらいの規模になるのでしょうか。事業ビジョンについて教えてください。
次ページでは、アリックスのTRSの今後のビジョンや、日本でTRSのニーズが非常に高まっている根本的な理由について、3人に語ってもらった。