
非上場化して1年余りがたった東芝。足元の業績は上向いてきている。再び表舞台に返り咲くため、稼ぎ頭に位置付けようとしているのが生成AIのマネージドサービスだ。長年にわたる製造業の経験をどのように生かしていくのか。特集『絶頂か崩壊か 半導体AIバブル』の#6では、その真価に迫る。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)
捲土重来を期すかつての名門
「生成AIサービス」が再建の鍵に
東芝が苦境を脱しようと懸命だ。非上場化して1年余りがたち、構造改革の成果も見えつつある。かつての世界企業が捲土重来を期して注力するのが、生成AI(人工知能)を使ったデジタルソリューションだ。
過去10年の東芝は、アジアの競合他社の台頭やデジタル化の遅れにより、“冬の時代”にあった日本のエレクトロニクス産業の中でも、際立って厳しい状況にあった。
2015年に不正会計問題が発覚して経営が混乱に陥り、17年には子会社で原子力発電事業を担っていた米ウエスチングハウスが経営破綻して巨額損失に見舞われた。追い込まれた18年には収益の柱だった東芝メモリ(現在のキオクシアホールディングス)を売却。
その後もアクティビスト(物言う株主)による経営介入により長期戦略を描きにくい状況が続いた。そのため、23年に東芝は投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)傘下で非上場化する道を選んだ。
「デジタルなどの強化分野で、26年度に10%以上の売上高営業利益率を達成する」。島田太郎社長は24年5月に公表した再興計画でこのように打ち上げた。東芝の営業利益率は22年度で3%台。一見すると強気過ぎる数字にも感じられるが、同社関係者は「現実味はある」と語る。一定の説得力はトップの経歴から来ている。
島田社長は新明和工業で技術者としてのキャリアをスタートし、米国のソフトウエア会社に転職。この会社を買収した独シーメンスでデジタル部門を歩み、18年に東芝に転じてからも子会社の東芝デジタルソリューションズ社長を務めるなどした。「製造業×デジタル」の分野で知見のある経営者として知られている。
目下のところ、東芝の事業ポートフォリオの中で、インフラ、エネルギー、デジタルソリューションの三つの領域で安定的に収益を生んでいる。中でも、東芝経営陣が特に有望視しているのがデジタルソリューションだ。
東芝では社内でも、生成AIの活用を積極化させており、デジタルソシューション領域における“商売の種”を模索している。例えば、「業務改善トライアル」に社員約400人が参加し、1人当たり月平均5.6時間の業務削減という成果を上げた。こうした生成AIを活用したデジタルソリューションは、エネルギー、ビル、デバイスといった縦軸の事業領域に横断的に展開されており、全社的な業務の効率化と新たなサービス創出の要になっている。
中核に位置付けているのは、東芝デジタルソリューションズが展開する生成AIマネージドサービスだ。東芝自身は独自の大規模言語モデル(LLM)は持たず、米OpenAIなど他社の生成AIを活用している。その際はクラウドで機密情報が学習されないような仕組みを導入し、情報セキュリティーに配慮している。
「LLMはどうしても米国の巨大IT企業が強く、正面から勝負するのは難しい」。AI事業に携わる小山徳章シニアフェローは、そう本音を打ち明ける。
22年にChatGPTが登場し、当初は東芝も自前のLLM開発を想定して研究に取り掛かったが、桁違いの資金を投じる米国ガリバーらには太刀打ちできなかった。
独自性のある大規模モデルを構築しようとすると、米エヌビディアの画像処理半導体(GPU)に数千億円を投じ、莫大な電気料金を支払って学習させる必要がある。小山氏は「技術の進展と安全保障の観点から、和製の生成AIは必要」と考えるが、経営再建中の東芝は単独で取り組むのは現実的ではないと判断した。
活路を見いだしたのが、長年の製造業で培ってきたノウハウを生かしたソリューションだ。次ページでは、東芝が逆境を乗り越える突破口として位置付ける、「非・自前」の生成AIマネージドサービスの真価に迫る。