時代遅れにならない上司ほど
「制度から」変える
それを理解するために、まず「ハードOS」と「ソフトOS」の考え方を知る必要がある。組織変革や業務変革を行う場合の理論的な枠組みとしてこの2つに分けて考えることは重要であるとされている。
具体的には、「ハードOS」というのは人事制度や社内の仕組みのことで、「ソフトOS」というのは個人の価値観や組織に残る風習などのことなのだが、組織改革や業務変革を行う場合の鉄則は、ソフトOSはそう簡単に変わらないと考えてハードOSにフォーカスすることといわれている。
つまり、人はそう簡単に変わらないので「人を変えるのではなく仕組みや制度を変えることを優先する」ということだ。その結果としてソフトな部分(人)も変わればなお良しと考える。
仕組みやシステムを変えることで行動が変わり、その結果、成果が上がり成功体験が積み上がると、自信が出てきてだんだん人の価値観も変わっていく――。このように新しい価値観が生まれてくるという順番を意識していけるかが、時代遅れにならずに変革を起こせる上司になれるかどうかの分かれ目になる。
「上司が残っていること」自体が
そもそも問題
冒頭で触れた、「上司より先に帰りにくいという暗黙のルール」を例に考えてみよう。
「そんなことないから帰っていいよ」と上司が発信するのは考え方や価値観、雰囲気を変えようという施策であり、ソフトOSに対しての対策だ。残念ながら、これはあまり意味がないだろう。
それよりも「管理職の残業を禁止し、管理職は18時半にはオフィスにいてはいけない」という制度を作ってしまう方が、結果的に上司は誰よりも早く帰ることになり、上司がいるので部下が帰れないといった問題自体がなくなる。
実は、この場合の問題は「帰りにくい雰囲気がある」ことではなく、「実際に上司が残っていることで部下の残業が発生している」ことである。それをなくすことで雰囲気や価値観に関係なく、問題は解消できる。
もちろん、上司が残っていると早く帰りにくいという雰囲気は残ったままになるように思えるが、実際に毎日上司が早く帰っていれば部下はそういった気持ちになることはほぼなくなり、だんだんと帰りにくいという雰囲気は出なくなってくる。
もし、この職場に新卒社員が入ったとしたらどうだろう。
上司が18時半にはいつも帰っていてそれが当たり前になってくれば、「上司が残っているので帰りにくい」という考え方や価値観すら生まれないのではないだろうか。つまり行動の積み重ね、事実の積み重ねこそが価値観や雰囲気を作るのである。
管理職に求められるのは
問題の本質を見極める視点だ
管理職に求められるのは、何が問題なのかを見極め、そしてどういったシステムや制度、仕組みを作り、それをどう組み合わせれば人の行動が変わるのか、そしてその結果として今回のような価値観をなくせるのかを考えるべきということである。
どうしても価値観に注目してしまいがちだが、それよりも行動を変えること、そのための仕組みや制度、システムを作ることだ。行動が変われば、問題は解消するし、結果として価値観も変化する。
これを行う際に大事なのは、人間のインセンティブや効用などについて理解することである。経済学や経営学の中に「エージェンシー理論」や「ゲーム理論」など、人間がどういったことにインセンティブを持って行動するのかなどを理解するための理論はたくさん存在する。それ以外にも仕組みや制度の元になる考え方や理論はすでに有名なものがあるし、うまく使っているマネジメントの事例もたくさん存在している。
経営者、管理職の立場にあり、そういったことを自ら学んでいるかどうか、そしてシステムや制度を設計する能力があるかないかで主体性のあるチームを作れる上司かそうではない上司かは分かれてしまうのだ。