全員がしばらく無言になる。
プロデューサーは雨の想定(*注釈は記事末に列記、以下同)が抜け落ちており、その下のディレクターも未熟で、雨の想定をしている人間は出席者の中にひとりもいなかった。新興であるテレビ上方の社員たちはそれほどまでに番組制作経験が浅かったのだ。われわれは大慌てで雨天の対応を議論することとなった。
キー局(*)から出向でテレビ上方に来ていた西編成局長は、制作のベテランではなかったものの、編成部や映画部の経験が長く、テレビの世界を知悉(ちしつ)していた。バタ臭い二枚目でとっつきにくいが、つねに沈着冷静で「もののふ」然とした態度は周囲から一目置かれていた。
新入社員の私は、西編成局長を見て、「鋭い人がいる」と敬服した。そんなことはテレビ制作現場では当たり前の話だが、会社に入ったばかりの私は生まれたての雛と同じで、親鳥・西編成局長(*)に感心してしまったのだ。
収録日当日、編成部の私も制作の手伝いに、収録現場・扇町公園に朝6時半に集合することになった。もともと制作志望の私にとって、制作現場を体験できる貴重な機会でもある。自然と胸は高鳴った。
自宅から収録現場まで1時間半。気合が入りまくる私は誰よりも早く到着するべく、前日は現場近くの友人宅に泊めてもらうことにした。友人は大学の同期で留年したためそのまま大学界隈に住んでいたのだ。
ところが、彼は数カ月ぶりの再会をおおいに喜び、クラブの同期の友人たちを呼び寄せて飲み会が始まってしまった。
「番組収録に参加するなんて、さすがテレビ局やな」
「芸能人にはもう会ったんか?」(*)
仲間たちに業界人風を吹かせながらの飲み会で気持ちよくなった私はつい飲みすぎた。
朝、友人宅で目を覚まし、時計を見て真っ青になる。もう7時半。集合時間をとっくにすぎている。時間には神経質で、待ち合わせにも早く行くタイプで今まで遅刻などしたことはない。それが、よりによってこんなに大事なときに……。猛ダッシュで会場に向かったが到着したのは8時すぎ。
「遅れてしまってすみませんでした!」
プロデューサーに土下座せんばかりの勢いで謝罪すると、「どうした、新入社員が重役出勤か? さっさと持ち場につけ!」。
入社早々のやらかしに落ち込む暇もなく、ディレクターの指示のもと、すぐさま参加者の出欠確認に入る。