点呼を行なうと、なんと10名以上の出演者(サラリーマン)が集合時間の8時をすぎても姿を現さない。オープニングに100人が勢ぞろいする絵を撮る予定なので、1人、2人ならまだしも10数人も遅刻されては困るのだ。

「こんなに予定時刻に遅刻するなんてサラリーマンの風上にも置けへんなあ」

 思わず私がそうつぶやくと、先輩ディレクターから「誰が言うてんねん」と厳しいツッコミが入った。

 いざ番組収録がスタートすると、私は手持ち無沙汰になり、ゲームやクイズをぼんやりと眺めていた。

 目の前で、数種類の色とりどりの用紙を指定どおりに並べ替えホチキス止めする競技が行なわれている。5名ごとに1組になっていて、1組が終わるごとに次の組が同じ競技に挑戦する。時折、焦りまくった参加者が用紙を足元にぶちまけたりするが、だいたいはおっさんたちによる淡々としたホチキス止めが繰り返されるだけで面白くもなんともない。そんな競技をずっと収録している。こんなものが番組になるのだろうか。

書影『テレビプロデューサーひそひそ日記』(三五館シンシャ)北慎二『テレビプロデューサーひそひそ日記』(三五館シンシャ)

 早朝から始まった番組収録は予定より少し押して(*)午後6時すぎに終わった。午前9時前からスタートしたから、9時間ほどはカメラを回したことになる。それにしても1日がかりの長い収録で、見ているだけの私もヘトヘトに疲れた。

 ところが、制作部の面々はこのあとすぐに膨大な撮影素材の仮編集に取りかかり、2日間でまとめるのだという。

 その数日後、局内でプレビュー会が開かれた。大きな特番やレギュラー番組の初回などはできあがった番組を関係者で事前観賞するのだ。

 末席で「史上最強のサラリーマン」をプレビューした私は驚いた。現場で目にしていたのとはまったく違う「作品」が流れていたのだ。