こうして見比べると、「かわいがってもらう」は個人の誠実さや努力が伝わった結果として周囲からの好意が得られるものであり、「ゴマすり」は評価権限を持つ相手に対して意図的に好印象を与えようとする行為という点で異なる。前者はポジティブに認識され、後者はネガティブなものとしてとらえられる。

 よって一般的には、「ゴマすり」は恥ずべき行為だ。上司やお客様もそんなことは百も承知だから、「やっても通用しない」ということになっている……はずなのだが、どうだろうか。

 職場や取引先を見渡すと、ゴマすりは実のところ、効果抜群である。あからさまなゴマすりに上司や顧客が手もなくコロッと転がされているのをはたで見ていて、鼻白んだり、げんなりしたりしたことがない人はいないだろう。

なぜ見え見えのゴマすりに
上司はあっさりだまされるのか

 なぜ、上司や顧客はゴマすりに弱いのだろうか。

 第一に、人間心理の問題がある。

 誰しも自分を肯定してくれる相手に好感を抱きやすいものだ。お世辞や称賛は一瞬でも相手に快い気分を与える。特に重要な役職に就く人は常に業務のプレッシャーにさらされているため、自分の立場や仕事ぶりを褒められると、ほんの少しでも精神的な安堵感が得られるのである。

 第二に、評価や発注の権限を持つ立場にある人がゴマすりに対して厳正に対処すると、場合によっては部下や取引先との関係がギクシャクする恐れがあるからだ。

 自分に取り入ろうとしている人間を強く拒絶するのは、感情的な対立を生みかねず、その後のやり取りに支障が出るリスクを伴う。そのため、上司や顧客は「そんなに露骨ではないし……」と半ば容認してしまうケースが少なくない。

 さらに、上司自身もゴマをすられることに完全に不快感を抱くわけではない。自分の指示や考えを肯定してくれる部下は「扱いやすい」と感じ、結果的にその部下に目をかけるようになる。こうして、ゴマすりによって評価が上がりやすい状況が成立してしまう。

 かく言う自分も、「この間の○○の記事、痛快でした」とか言われると、有頂天になる。少し冷静になってはじめてお世辞の類だったと理解するのだけれども……。