「安い」だけじゃないお得感の秘密

1商品単体による大規模販促でありながら、価格、数量、選択体験、拡張性のすべてを内包し、単価は低いが効果が高いマーケティング装置として機能している。
キャンペーンは毎年4月下旬に開始される。期間は4週間に設定され、ゴールデンウィークとその前後の週末をすべて網羅するスケジューリングとなっている。
2025年も同様に、4月23日から5月20日までの期間で実施され、「エッグタルタルソース」「完熟トマトのピッツァ風ソース」が新登場する。ソースは定番2種(バーベキュー、マスタード)と限定2種で、全4種から選ぶ設計となっている。
単に「安く売る」ことを目的とした値引きではない。商品構造と広告構成の双方が、ブランド接点の創出と顧客行動の設計に組み込まれている。
ナゲットの価格は1ピースあたり通常約49円。キャンペーン時には約32円となる。単価の落差で「得した感覚」が生まれる一方で、ソース選択により「選んだ体験」「未知の体験」が付加される。
顧客は単に支出を減らしただけでなく、「楽しさを得た」と感じる。体験的価値と経済的価値の同時提供は、顧客満足を高める設計の基本原則である。
さらに、プロモーションはマクドナルドのブランドポジショニング強化にも寄与している。ナゲットは、ハンバーガーやポテトと並ぶ定番商品でありながら、分け合うことが前提とされた商品である。
シェア前提の構造により、「ひとり用」ではなく「家族・友人と食べる」前提の文脈が形成される。ファミリー、カップル、グループ、親子、オフィスなど、あらゆる生活空間に適応する柔軟性があるのだ。私は1人で食べ切るが、そういう人はあまりいないだろう。
年間プロモーション計画において、チキンマックナゲットキャンペーンはGW前後の中核施策として機能している。
正月には福袋という物理的価値の高いセット商品が、3月にはてりたまという国民的季節メニューが、6月にはスパイシーチキンという刺激的な味覚訴求が、7月には冷製シェイクが、9月には月見が、12月にはグラコロという「季節限定商品」が展開される。