米国の比較優位性がなくなれば日本も大ピンチ

 米国の対中引き締め策に備えて、中国はオープン・イノベーションを重視し、AI関連分野の国際競争力を高めようとしている。にもかかわらず、トランプ大統領は状況の変化をあまり理解していないようだ。

 高関税政策で米国での製品製造を増やすよう強要する姿勢は、米国が世界最大・最強の大国であることが大前提にある。しかし、米国が優位だった先端分野で、中国企業の台頭が続いている。今後の情勢次第では、国際社会の米国離れが進むかもしれない。

 中国は自動車に続き、安価なAIモデル・AIチップの供給体制を整備し、この貿易戦争と直接的な関係がない国や地域に輸出するだろう。それは、新興国が経済成長率を高めることにもつながる。

 世界経済を牽引するAI分野で中国が台頭するほど、世界の政治・経済・安全保障の基軸国家としての米国の地位は揺らぐだろう。米国の覇権が不安定になると、台湾情勢、アジア太平洋、中東地域の不安定感も高まる。

 エヌビディアのフアン氏が、米国政府に対中半導体規制の見直しを提案するのは、自社の業績へのダメージを和らげたい意向があるだろう。一方で、それだけとも言い切れない。トランプ政策に対する危機感、焦りも相当高まっているはずだ。

 米国の人件費は高い。熟練の労働者も残り少ないという。そうした状況下、トランプ氏が対中引き締め策を増やし、関税政策を打ったとしても、米国の製造業が復活するかは未知数だ。むしろ、関税や強硬な対中政策は、世界のサプライチェーンを混乱させ同盟国の反感・離反につながる恐れがある。

 中国AI業界は今のところ、先端半導体の良品率向上は期待ほど進んでいないとの見方もある。そこには若干の時間の猶予がありそうだ。米国の比較優位性がなくなれば、同盟国であるわが国が半導体分野で得意とする製造・検査装置ビジネスにも多大な影響を被ることになる。決して対岸の火事ではいられないことだけは確かである。