じつはこれ以前にも、親御さんから頼まれ、引きこもりの子をバイトとして引き受けたことが2度あった。ひとりは、頑張って仕事を覚え、2週間ほどでなんとかまかせられるようになったと思った矢先、突然来なくなり、音信不通となった。もうひとりは、1日来ただけで、翌日は来なかった。父親から謝罪とお断りの連絡があった。
「今の小学生って、お金の計算できないよねぇ」とパートさんが言う。小学4年生以上の高学年で、これまでだったら金額を言えば、サッとお金を出せた年代の子たちもここ数年ほど、お金がうまく出せなくなってきた。お釣りを渡しても、あやふやな感じで、ちゃんとわかっていない。スマホの電子マネーが普及して現金を使う機会が少ないためだろう。
その間、何度か「やっぱりうちで働かせるのは難しいよ」と母親に言ったこともあった。だが、本人も母親も決して自分から「辞める」「辞めさせる」とは言わなかった。
シフトは2人体制だが、2人のうち、どちらがレジに入るかが決まっているわけではない。「得意不得意」をうだうだ言っていられない状況なので、「今日は私が検品するね」「それじゃあ、僕はレジ入ります」というようにその日の流れで仕事が決まる。
彼らはみんな仲良くまとまってくれている。自分の勤務時間外に買い物やコピーなどで店へ来て、レジが忙しそうだと思うと、サッとエプロン(昔はエプロンが制服だった)をつけ、一銭にもならないのに手伝っていくということがよくある。
30年ほど前、まだ携帯電話が普及していないころ、バイト学生には学校や友だちへの連絡用に事務所の電話を解放していた。ところがある月、事務所の電話代が3万円を超えた。夫が調べてみると、バイト学生たちがみな深夜に事務所電話で友だちと長電話をしていたことがわかった。世話焼きの私たち夫婦もさすがにこのときだけは真っ青になった。
巣立っていくバイト学生から「人と接することが苦手だったんですけど、このバイトをやって、本当にいろんな人たちと接してみて、人間が好きになった気がします」と言われたことがある。じつは、これは私の感想と重なる。