【中学受験】「自分の子どもを私立に入れられない…」と嘆く塾関係者。過去30年で変わったこと、変わらなかったこと向かって右から渋田隆之先生と富永雄輔先生 撮影:加藤昌人

塾業界30年以上のベテランであり、神奈川県の中学受験国語塾「中学受験PREX」の渋田隆之塾長と、吉祥寺など都内5箇所に教室を持つ人気学習塾「VAMOS」の富永雄輔代表による全6回の初対談。第2回は「過去30年の中学受験の推移の中で、変わったもの、変わらなかったもの」について扱う。(国語専門塾の中学受験PREX代表、教育コンサルタント・学習アドバイザー 渋田隆之、進学塾VAMOS代表 富永雄輔、 構成/ライター 奥田由意)

地下鉄サリン事件、ゆとり教育、リーマンショック、3.11…
中学受験を取り巻く大波と「学校数」変化の30年

富永:中学受験の世界も、ここ20〜30年で大きく変わってきた部分と変わらない部分があると思います。この30年ほどの中学受験の推移や変化をどのように見ていますか。

渋田:この間、さまざまな事件や社会事象の影響を受けて「サンデーショック」どころではない受験者数の増減がありましたよね。1995年の地下鉄サリン事件をきっかけに、電車通学に不安が広がり受験者減、2002年のゆとり教育開始で受験者増、08年のリーマンショックを受けて減り、11年の東日本大震災でも臨海部の学校を中心に減り、さらにコロナ禍で減り……。

 そんな中でも私立はそれぞれ懸命に対応しながら、しぶとく生き残っています。そして、何より、圧倒的に学校数が増えましたね。受験者数との比率を考えれば、中学受験は加熱と言われるほど加熱ではない。

 私が受験指導を始めた1992年頃は200校ほど、07年が個人的にピークだと思ったのですが、その時でも250校くらい。今は300を超えています。

 かつては東京都立小石川中、横浜市立南高等学校附属中のような公立中高一貫校もなかったですし。今や高校募集を停止して中学に力を入れる学校もあれば、広尾学園、三田国際科学学園、中央大学附属横浜といった新しい学校も登場しました。

富永:確かに選択肢は増えていますね。ただ、そうなると、ますます偏差値だけで学校を選ぶというのも難しくなってきていますね。情報量も多くなり、過度に数字への意識が強まる一方で、逆に「数字を気にしなくていい」という人も増えていて、両極化していますよね。

渋田:両方のバランスが必要なんですけれどね。偏差値は学校のステータスではなく、「その模試のその問題に適応できたかどうかの数字」でしかありません。特定の模試に対して適応力のある生徒が高い数字を取れているだけなので、入試本番とは全く違う。

 直前に親や塾が過去の模試を購入したり、予想問題を作成して無理やり勉強させたりする「ドーピング」も効きます。当然ですが、付け焼き刃で獲得した偏差値が高いからといって必ずしも合格できるとは限りません。