インベスターZ『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第183回は、日本の電力問題の未来を展望する。

天才青年はオックスフォードで何を目指す?

 投資部主将の神代圭介は名門・英オックスフォード大学への進学の意志を明かす。メルトダウンした福島第一原子力発電所の廃炉を早める研究に取り組むと将来を語る神代は、自国の課題解決こそ進路選択の理由だと矜持をみせる。

 神代の志にあふれる決意表明を読んで、「核武装が目的ではないなら、原発は段階的に廃止すべき」という持論に大学時代にたどり着いたことを思い出した。

 左寄りの思想があったわけではなく、原子力発電という技術そのものを否定する考えもなかった。何冊か本を読むうち、単に「日本という国は原発に向いていない」という結論に至ったのだった。

「3・11」を経て、新冷戦が叫ばれる今となっては後出しジャンケンのように聞こえるかもしれないが、私が一番懸念したのは地震と戦争だった。

 日本が世界有数の地震大国なのは説明するまでもないだろう。日本海側には物騒な「お隣さん」が並んでいる。狭い国土は核廃棄物の処理にも不向きだ。世界全体の電力源として原発というパーツがあってもいいが、それは「向いている国」に任せた方が良い。

 この考え方は今も変わっていない。ただし、これは理想論であって、たとえば原発再稼働に何がなんでも反対という立場を私はとらない。電源構成上、原発が重要な現状を考えれば、可能な限り再稼働を進めた方が日本経済にはプラスだろう。

 あくまで現実主義者であることをお断りしたうえで、あえてさらに理想像を膨らませてみたい。

「いつまでたっても30年後」な夢のエネルギー

漫画インベスターZ 21巻P95『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 原発を代替する電源は再生可能エネルギーが望ましい。柱となるのは太陽光と風力だろうが、日本の強みとなりうる小規模水力と地熱の活用をもっと広げる。

 資源小国と言われる日本だが、降雨量・積雪量は世界有数であり、「欧州の基準でいえば日本の河川は『滝』だ」と言われるほど「水の位置エネルギー」は豊富だ。地震大国の裏返しで地熱にも恵まれている。

 以前、私は再生可能エネルギーについて懐疑派だったのだが、ロンドン駐在の間に欧州の現場を見たことと、『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』を読んで考えを改めた。水力、地熱についても、小型化・モジュール化でプロジェクトのリスクを下げれば、地産地消型の電源開発のポテンシャルは高い。

 海外線の長さと領海の広さも日本の強みだ。藻・海藻などの「ブルーカーボン」を生み出す余地は大きい。緑にあふれる豊かな国土と海を組み合わせれば、相当量の二酸化炭素を吸収できる。

 エネルギーの転換に、自動運転とEV化を組み合わせた都市部のスマートシティ化と地方のコンパクトシティ化、高速道路網・鉄道網を生かした交通・物流の再構成といった全体最適化が実現すれば、「持続可能な経済大国」のモデルになる道が日本にはあるのではないか。

 これらは「白いキャンバスに絵を描けるなら」という妄想でしかないが、個々のパーツはそれなりに実現可能性がある既存技術がベースになっている。夢のエネルギー源である核融合の実用化は「いつまでたっても30年後」という逃げ水のようなものだし、別の夢を追ってみても悪くないのではないかと夢想している。

漫画インベスターZ 21巻P96『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ 21巻P97『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク