もしそれだけなら、昔の西部劇の一場面のように、一匹狼のカウボーイがある町を通りかかったところ、太っちょの実力者がバーも食料品店も郵便局も鉄道も銀行も、当然ながら保安官も自分のものにしているのに気づくというシーンが思い浮かぶだろう。だが、それだけではない。ジェフが所有するのは店舗や公共施設だけではない。あなたが歩く土の上も、腰を下ろすベンチも、吸う空気すらも彼が所有している。

 実は、この奇妙な街では、目にするもの(そして目にしないものも)すべてがジェフのアルゴリズムによって管理されている。あなたと私が隣同士並んで歩き、どちらも同じ方向を見ていたとしても、アルゴリズムが提供する景色はひとりひとりまったく違い、ジェフの目的に沿って注意深くカスタマイズされている。アマゾン・ドットコムの中を動き回る人はいずれも──ジェフ以外は──、アルゴリズムによって隔離された場所をさまよっている。

完全な独占市場よりも
たちが悪いアマゾン・ドットコム

 ここは市場と言える街ではない。超資本主義のデジタル市場の一形態でさえない。どんなにひどい市場でも、そこは出会いの場であり、人々が接触し、それなりに自由に情報をやり取りしている。実際、完全な独占市場よりもアマゾン・ドットコムはたちが悪い。少なくとも独占市場では、買い手同士が話をしたり、協会を作ったり、不買運動を起こして独占的な売り手に値段を下げさせたり、品質を上げさせたりできる。ジェフの領土ではそういうわけにもいかない。あらゆるモノと人を仲介するのは、中立的な市場の見えざる手ではなく、ジェフの利益のために働き、彼の好みにだけ合わせて踊るアルゴリズムだからだ。

 それでもまだ恐ろしくないというなら、このアルゴリズムは、私たちが学習させたアレクサを通して私たちについて学習し、私たちの欲望をつくり出しているアルゴリズムと同じものだということを思い出してほしい。あまりの傲慢さに嫌な気持ちになるはずだ。私たちがリアルタイムで学習を手助けした結果、私たちの裏も表も知り尽くしたそのアルゴリズムが、私たちの好みを変化させ、その好みを満足させる商品を選んで配達させている。それはまるでドン・ドレイパー(編集部注/1960年代のニューヨークの広告業界を描いたテレビドラマ『マッドメン』の登場する敏腕広告マン)が私たちに特定の商品への欲望を植えつけたうえで、どんなライバルも押しのけて、即座にその商品を玄関口に配達する超能力を手に入れたようなものだ。