(2)ホワイトを意識し過ぎで業務指導ができていない
最近は、ちょっと強めに言うだけでもパワハラ扱いされ、気軽な気持ちでお願いしたら「それって必要ですか?」などと言い返される、といった職場の話はよく聞きます。そのような状況では、本当に必要な指導さえも及び腰になる一方で、新人側は「何も叱られないのもつらい」という隘路にはまってしまいがちです。
新人が円滑に業務を遂行するためには、指示や指導は欠かせません。また、ミスやトラブル対応の経験は、後の成長に大きく反映されるものです。
特に、いずれはマネジメント側になりたい、などと思っている意識高い系の若手ほど、ミスしても適切な指導もなくただ甘やかされ放置される職場を見切り、やり直しの効く年齢のうちに転職しようと考えるのは当然です。
今回のケースで上司は、「Aがフォローして、Kさんは定時で帰って」と言っています。Kさんに残業を命じればパワハラ認定されるかもしれないという恐怖、あるいは仕事を振りすぎてはいけないという配慮があったのでしょう。いずれにしてもKさんは成長の機会を逸してしまいました。
上司が、「Kさんも残業になるけど一緒にやろう。フォローするよ」と声を掛ければ、緊急対応やチームワークを学べる良いチャンスだったはずです。Kさんは、チームの一員であるという承認欲求が満たされ、「期待されていない」「気を遣われ過ぎ」という退職理由は出てこなかったでしょう。
労働環境を刷新するきっかけとなった働き方改革とは、「意欲・能力を十分に発揮できる環境を作ること」「個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすること」を目指すとしています(厚生労働省)。
「ゆるく甘やかすこと」は目指していません。残業をさせない、休みが多いといった単純明快な結論だけでは、本来の主旨とは違うところに向かっているともいえるのです。
(3)組織が先回りしてチャレンジをさせない
AさんはKさんに、「安心・安定の取引先」を渡そうとしていました。言ってしまえば、失敗もないが提案や改善といったチャレンジもなく、努力しなくても成果が出てしまう取引先です。もしKさんがこれらの取引先を引き継いでいたとしても、遅かれ早かれ退職していたかもしれません。
また、Aさんはクレーム処理や緊急対応、残業を自身で行ってきました。これも言ってしまえば、難易度が高いものや集中して結果を出さなければいけない案件に、Kさんを参加させなかったのです。
Kさんを、チームの一員としてやらせてみて伴走するなど、チャレンジの機会を作ることはできたはずです。Kさんからすると、やりがいのない状況に置かされている、と不満が溜まっていたのでしょう。
新人には整備された環境を、潰れない仕組みづくりを、などと組織が先回りし過ぎると、チャレンジのできない職場になってしまいます。