人工呼吸器を装着して
鼻から経管栄養剤を投与
「最近では外食で焼き鳥を食べて、ギラン・バレー症候群を発症し、上半身から下半身まで動かなくなった50代女性がいました。食べるときに『ちょっと赤いかな?』と気になったようですが……。その女性は急性期病院から私が勤務する病院に転院し、半年かけて徐々に回復しました」
過去には40代男性で鳥刺しを食し、やはり数週間後に発症、首から下が動かなくなった人もいた。
「一時期は人工呼吸器を装着し、口から食事を摂取できないので鼻から経管栄養剤を投与する形になりました。まひがあるため、ナースコールさえ押せません。ボタン式が押せない人のために息を吹きかけて知らせるブレスコールによって対応できますが、ご本人の胸の内は相当に葛藤があったことでしょう。脳に問題はありませんから、状況はよく認識できるのです。体のみ動かせない状態です」(遠藤氏)
カンピロバクターに感染しても嘔吐(おうと)・下痢にとどまる場合がほとんどで、難病まで至る確率はかなり低い。それでも遠藤氏の勤務先には毎年数人、加熱不十分な鶏肉を食し、ギラン・バレー症候群を発症した患者が運び込まれるという。
回復まで1年かかったり
後遺症が残る場合もある
「鶏肉ひとつで人生が変わってしまう」と、遠藤氏は訴える。
「リハビリをすればだんだんと普通の生活ができるようになります。けれどもそこに行き着くまで数カ月から1年かかる場合もありますし、発症した人の中には後遺症が残ってしまう人もいます。最近はやわらかい鶏肉チャーシューや、鶏肉のたたきのようなものがブームで、おいしいのはわかります。でももし感染すれば今の生活が一変してしまいます。多少まずくても、鶏肉はしっかり加熱しましょう」
夏には焼き肉やバーベキューの機会も増えるが、「生肉を網に載せて焼く箸と、食べる箸が同じでも食中毒が起こることがある」と、再び望月氏が指摘する。
「特に鶏肉や豚肉はカンピロバクターだけでなく、発熱や腹痛、粘血便の症状が起きるサルモネラ菌が付着していることもあるので、やはり十分な加熱が重要です。また屋外バーベキューでも、家庭でも、調理の際は生肉の横に野菜を置いておくなどということはしないようにしましょう。そこから細菌が移ってしまいますので、食材同士をきっちり分けておくことが大切です」