実際に経験することで
恐怖心が減少する

 当時の別の観察者は、次のように記している。「一般市民の冷静な行動は驚くべきものだ。昨日まで激しい爆撃を経験してきたロンドン郊外に住む通勤者たちが、朝の電車の中で、平和な夏にバラやカボチャの自慢をしていた時のように、爆弾でできた近所のクレーターの大きさについて、他の乗客に穏やかに自慢していた」。

 英国人の冷静な反応は、決して特別なものではなかった。

 最近の例として、フィリップ・セイの調査が挙げられる。彼は1982年のイスラエル軍による10週間の包囲の直前、たまたまレバノンのベイルートで不安に関する研究を行っていた。その研究への参加者を追跡調査したところ、避難しなかった人々は、戦争関連の刺激に対する恐怖反応が著しく低下していたという。

 英国人が大空襲の間に経験したことは、重要な心理学的原則を示している。恐怖は、それにさらされることで軽減される傾向にあるのだ。直接的な危害を受けることなく恐怖を経験することで、将来の同様の状況に対する恐怖が減少する。毎晩のように空襲の恐怖に直面しても、それに対する典型的な反応は不安の増加ではなく、適応だった。

不安を軽減するための行動が
実際は逆効果になる

 能力の向上において、不安や恐怖はしばしば知的な困難よりも大きく立ちはだかる。

 何年もフランス語を学んできたにもかかわらず、パリ旅行中に会話に自信が持てなくなってしまう人。テストを受ける前に胃が痛くなるような不安を感じ、模擬試験を始める前から気持ちが滅入ってしまう受験生。完全に適職なのに、「まだ準備ができていない」と感じて就職のチャンスを辞退してしまう求職者。練習することを考えると不安でいっぱいになるため、特定のスキルや科目を完全に避けている人。そんな人が、どれほどいることか。

 こうした困難にもかかわらず、私たちは自分の恐れを理解できないことがよくある。さらに重要なのは、不安を軽減するために行っている戦略が、実際にはそれを悪化させることが多いと気づいていない点だ。