「説明」の最終目標は、聞き手が「知る」ことではなく「分かる」ことです。

 この「分かる」という言葉には、いろいろな意味があると思います。しかしここでは「話し手の意図を正しく理解すること」と定義しましょう。

 では「分かりやすい」とは、すなわち「話し手の意図を正しく理解しやすい」とは、どういう説明なのでしょうか。

 結論から先に書いてしまえば、「分かりやすい説明」とは「脳内関所を通過しやすい説明」のことです。「脳内関所」とは、脳の短期記憶領域を意味する私の造語です。

「脳内整理棚」に格納されると
「分かった!」ことになる

 大脳生理学では、記憶を「短期記憶」と「長期記憶」の2つに分けて考えます。

 短期記憶とは、聞いたばかりの電話番号を、メモしないでも一時的に覚えていられるような記憶のことを言います。一方、長期記憶とは、卒業した学校の名前をほぼ永遠に覚えていられるような記憶のことです。

 名前通り、短期記憶は記憶保持時間が一時的で短く、長期記憶は記憶保持時間が長く、ほぼ永遠というのが特徴です。

図表:情報は「関所」で仕分けされて「棚」に納められる同書より転載 拡大画像表示

 短期記憶が処理される領域は、脳に入ってくる情報を一時的に留め、その情報を吟味し、意味を確定するための「仕分け場」です。本文ではここを「脳内関所」と呼ぶことにします。

 脳内関所で処理され意味が確定した記憶は、長期記憶が保存される領域に伝えられ、そこで永久保管されます。

 長期記憶が保存される領域には、格納する情報の種類に応じた、いくつもの仕切り棚が設けられているとイメージしてください。たとえば「英文法の知識」「パソコンの使い方」「会社での人間関係を維持するノウハウ」「最近の経済動向」など、大きなカテゴリー別にたくさんの整理棚があるのです。