友人の視野がまだ暗いことに十分配慮し、目が暗闇に慣れるまで待ちましょう。また、つまずいて転ばないように、最初はゆっくり歩くなどの配慮をしましょう。

伝えるために必要なのは
「初めて聞く人への配慮」

 先日、帰宅途中の駅で「コンタクト・レンズに関するアンケートにご協力いただけますか?」と声をかけられました。アンケートを装い、最後には新製品のパンフレットでも渡す意図は見え透いていました。急いでいなかったのと、私もコンタクト・レンズを使っていて、新技術には関心があったので足を止めました。

 喜んだ説明員は、口頭でいろいろな質問を始めました。おもに現在使用中のコンタクト・レンズに対する不満に関することでした。そして一通り質問が終わると、手慣れた口調で、何やら新しい理論に基づいた技術の説明を始めました。

 私は内心「来た、来た」と思いながら、耳を傾けました。ところが熱心に話してくれるのですが、何を言っているのか理解できず、チンプンカンプンだったのです。

 これは、その新理論とやらを今日初めて聞く私と、熟知している説明員との間に横たわる、新理論に対する「慣れ」の差が一因だと思います。先に映画館に入っていて目が暗闇に慣れている人と、たった今、映画館に入ったばかりの人との差です。

説明が下手な人が
認識すべき「タイムラグ」

 私は、この物事に慣れるまでの時間を「タイムラグ」と呼んでいます。下手な説明は、たいていこのタイムラグを認識していない結果です。

 タイムラグとは、一般的には、「時間のずれ」「時間差」ですが、ここでは、聞き手の脳が説明されているテーマに慣れ、その内容を消化、処理できるようになるための準備時間を指します。

 脳内関所(編集部注/脳の短期記憶を処理する仕分け場を意味する筆者の造語)が、情報を「どの脳内整理棚(編集部注/脳の長期記憶を保存する際の仕切り棚)」に格納するべきか」を選定するのに必要な時間です。