「自分は小さい頃から徹頭徹尾、ある価値観を叩き込まれて生きてきた。それは不幸なことかもしれないが、どうしようもない」

「だから、不幸は受け入れる」

 そうして受け入れると、では、自分はどうしたらいいかということが見えてくる、ということなのです。

 不安の原因について、カレン・ホルナイは、「基本的葛藤(basic conflict)」と述べています。すでに述べましたが、人間には成長と退行の欲求が両方あります。自立と依存が両方あって、それが心の中で葛藤しているのです。

書影『不安をしずめる心理学』(加藤諦三、PHP研究所)『不安をしずめる心理学』(加藤諦三、PHP研究所)

 言い換えれば、人間には神の部分と悪魔の部分と両方あって、それが葛藤しているということです。もし神の部分だけだったら、あるいは悪魔の部分だけだったら、人間は苦労することもなかったはずです。ところが、人間は自分の中に神の部分と悪魔の部分の両方を持ってしまった。

 繰り返しますが、基本的に我々は葛藤を持っている。成長の欲求と退行の欲求、自立の欲求と依存の欲求というように、正反対の欲求を自分の中に持っているのです。

 この問題を容易に解決できるなら、そもそも不安な人はいません。先ほども述べたような意識と無意識の乖離はなく、人格は統合されているはずです。

 ところが、これが統合されていないのが「基本的葛藤」です。さらにフロムは「unsolvable conflict」とまで言っています。「解決できないほどの葛藤」があると言うのです。本人も意識していない隠された敵意です。

 これを解決しない限り、人とは心でつながらない、心で触れ合って結びつくことができないのです。