
アルゼンチンは長年の財政悪化と通貨不安に苦しんできたが、自由至上主義を掲げるミレイ大統領の下で大きな転換点を迎えた。大胆な構造改革とインフレ抑制策により経済指標は改善傾向を見せ、国際的な評価も高まりつつある。一方で、対中関係の再構築や対外収支の課題、そして政治的安定性といった懸念も根強い。10月には中間選挙を控えており、改革の行方は国民の審判に委ねられることになる。(第一生命経済研究所主席エコノミスト 西濵 徹)
自由至上主義者ミレイ政権の
ショック療法
南米アルゼンチンは、1930年代の世界恐慌以前は世界有数の先進国であったにもかかわらず、長年の左派政権下での外資排斥の動きやずさんな財政運営などを理由に、過去に9回もデフォルト(債務不履行)に陥るなど凋落(ちょうらく)の歴史をたどってきた経緯がある。
こうしたなか、一昨年の大統領選挙では、リバタリアン(自由至上主義)を標榜(ひょうぼう)する経済学者のミレイ氏が経済の立て直しを公約に掲げて勝利し、同政権の下で大胆な政策転換が図られている。
ミレイ氏は、大統領選において中央銀行や通貨ペソの廃止による経済のドル化といった極端とも言える政策を掲げたことに加え政治経験の乏しさもあり、当初は政策の実行力が未知数とみられていた。
しかし、就任直後から省庁再編や国営企業の民営化をはじめとする公的部門のスリム化に取り組み、政権はこうした取り組みを『ショック療法的』と称するなど、財政健全化に向けた政策の優先度を高める取り組みを進めた。
さらに、議会において政権与党が少数にとどまるなか、当初は大統領令の乱用により議会手続きを無視する動きをみせたが、その後は議会との協議を通じて経済改革や緊縮財政を実現させるなど、政治手法の練度が上がっている様子がうかがえる。
次ページでは、ミレイ氏の改革によるアルゼンチン経済の変化を検証する。