営業列車に乗ってわかった
グランクラスの「価値」

 そして迎えた7月10日、筆者は大宮駅6時29分発の「やまびこ51号」に乗り込んだ。グランクラスは先頭車両の10号車にあるが、さすがに平日早朝の「やまびこ」に需要はないようで、定員18人のところ乗客は他に2人だけだった。

 試乗などで座った経験はあるが、改めて営業列車で目の当たりにするとバックシェルタイプの存在感はさすがで、本革を用いた座面の質感も高い。最大45度のリクライニング、座面、レッグレスト、フットレストの調整は全て、手元のボタンで電動操作だ。

「ひのとり」プレミアムシート(1人がけ)「ひのとり」プレミアムシート(1人がけ)(筆者撮影)

 座席の機能としては申し分ないのだが、グランクラスと同等のサービスをプラス900円で実現している事例を知っている。近畿日本鉄道の特急「ひのとり」のプレミアムシートである。グランクラスと配置、機能、シートピッチはほぼ同じであり、シートの触感は「ひのとり」の方が個人的には好みである。

 結局、グランクラスは、手元のボタンでアテンダントを呼び出せるなど、飲料や軽食の提供という「空間」があってこそのサービスで、座席は本質ではない。座席だけなら、その後に利用したグリーン車で十分であり、それ以上の料金を払うべき動機が見当たらない、というのが今回初めて利用した感想だ。

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 JR東日本は今年3月、2030年頃の導入を目指す次期東北新幹線車両「E10系」の第1編成はグランクラスを組み込まずに製造すると発表した。これは先行して数年間の試験走行を行うための事実上の試作車であり、座席の形態は追って検討するという以上の意味はない発言ではあるが、グランクラスが曲がり角を迎えていることは確かだろう。

 現状ではE5系全編成に連結されているが、長距離利用のニーズだけならば「はやぶさ」専用編成を製造し、設置対象を絞る選択肢もある。しかしながら「ひのとり」が座席の価値だけで高い人気を誇っていることをふまえると、高付加価値サービスとして再定義する可能性も残されているように思える。どのようなあり方が利用者とJR東日本にとって望ましいだろうか。

 このような破格のキャンペーンは今回限りかもしれないが、新幹線eチケット購入時にJREポイントを使うことで、座席をグリーン車またはグランクラスにアップデートできるサービスもある。こちらは8500ポイントでフルサービスのグランクラスにできるので、こちらも経験してから考えてみたい。