経営者が感性価値に投資するために
コンサルとして不足しているもの

「ニュータイプ」のコンサルが体験設計をリードする!ビジネスに感性価値もたらすデザインのアプローチとは

――どのような事例ですか。

 住友金属鉱山が発明した近赤外線吸収微粒子「CWO」です。太陽光などに含まれる近赤外線を吸収し瞬時に発熱する高機能素材で、特許切れに備えて用途開発をしたい、という相談を同社から受けました。B2Bの素材のプロモーションって、業界向けの展示会に製品を並べるようなやり方が多いのですが、私たちは「誰にでも一瞬で意味や効果が伝わるものを作ろう」と考えました。こうして生まれたのが、ダウンが入っていない透明のダウンジャケットです。

 表面にCWOを塗っていて、着た瞬間に暖かさが実感できる。これに「SOLAMENT(ソラメント)」というブランドをつけて、Japan Mobility Show 2023やSXSW2024(サウス・バイ・サウスウエスト=米国のクリエイティブカンファレンス)に出展すると、大きな反響がありました。そのユニークな視点や、ブランドのクリエイティビティが世界中のアパレル企業から注目を集め、多数の見込み客を生み出し、クライアントである住友金属鉱山の市場開拓を大きくドライブさせました。これは、機能価値だけだった製品に体験価値を創造した好例です。

――確かに、一瞬で用途のイメージが広がりますね。

 日本企業は良くも悪くもプロダクトアウトの文化が強く、プロダクトやサービスを通じてエンドユーザーにどういった価値ある体験を提供できるかについては、十分に注力し切れていないと思います。社会において確固たる存在感を示していくためには、あらゆる企業が自らのプロダクトがどんな体験を生み出せるのかを示していくことが重要で、そこにクリエイティビティを発揮することは不可欠だと思います。

――とはいえまだまだ機能価値を重視する企業は多いと思います。感性価値に軸足を移すためには、現状で足りないものは何でしょうか。

 二つあって、一つはKPI(重要業績評価指標)です。日々キャッシュフローの改善に心を砕いている経営者が、指標化が難しい感性価値に投資できるかというと難しい。一時的に投資したとしても、業績が悪くなると真っ先に削られてしまいます。

 これは、私たちコンサルティング企業側にも責任があります。体験価値を具体的な指標として示し、それが企業や事業の売り上げにどのように関連するのかを明確に説明できる必要があります。この分野ではエージェント型AIを含むデータとAIの活用により、ブレークスルーが起こせると考え、さまざまな知見を投入して取り組んでいるところです。