バラバラな施策を重ねても、ブランド価値は生まれない

――もう一つは何ですか。

 ケイパビリティです。体験デザインを戦略から実行・検証までを、一貫して内製できる企業は多くありません。戦略は戦略コンサルに、製品やコミュニケーションデザインはデザインファームに、とバラバラに外注することを続けていると一貫性のある体験設計はできません。

――一貫性のある体験設計が大事だということは、まだ理解されていないのでしょうか。

 企業によります。理解しているからこそアウトプットまで一気通貫でサポートできる私たちに相談してくれるクライアントもあれば、部分だけ発注いただくケースもあります。後者の場合、「それではトータルなブランド体験向上につながらない」と指摘し、より俯瞰的な提案をすることもあります。

――それを可能にするために、多様なケイパビリティをそろえていくと。

 私たちのゴールは、クライアントのビジネスで成果を出すことです。それは究極的には「売り上げを上げる」と「コストを下げる」の二つしかありません。どちらも戦略コンサルだけ、テクノロジーだけでは実現しない。必要なケイパビリティを全て持つには、私たちが大きくならざるを得ません。今年(25年)5月のゆめみの買収もその一つです。

――ゆめみはデジタルサービス開発の会社ですよね。ソングのケイパビリティとかなり重なっているように見えますが。

 文化や方法論がまったく違います。アクセンチュアはもともと超大型SI案件が得意な会社なので、アプリを作るにしても、ゆめみのように「アイデア出しの3時間後にプロトタイプができている」みたいなスピード感はありません。また、これまで、とにかく世の中に「出す」ことを重視してきたので、長期的に育てていく部分が弱かった。

 この「育てていく」部分が得意なのがゆめみで、ローンチ後も、いじって、育てて、便利にし続けるカルチャーがあるし、ノウハウをクライアント企業にきっちり伝えて内製化をリードしてきた経験も豊富です。この文化をぜひともソングに注入してほしい。そして、アクセンチュアを教育してほしいと思っています。

――さらにデザインチームが巨大化しましたが、デザイナー出身ではない黒川さんが統括するのは難しくないですか。

 それはありません。むしろ、私のようにビジネスバックグラウンドを理解していることが、マネジメントにおいて重要だと思っています。ソングが目指すのはあくまでクライアントのビジネスの成長です。デザインもテクノロジーもAIも、その手段としてフラットに見ているし、これら多様な手段をマッシュアップして提供できる点に強みがあります。