また、KPIを「使う」という観点で考えたときに大切なのは「納得感」と「共感性」です。数字で示される定量指標は客観性があり、比較や進捗管理には向いています。しかし、数字だけでは伝わらない「空気感」や「肌感覚」が現場には存在します。それを補完するのが定性指標です。
NPS(Net Promoter Score)やユーザーインタビュー、カスタマーサポートの記録、SNSでの口コミなども、定性指標として貴重な資源になります。
重要なのは、こうした定性情報を「KPIとして扱える形」にすることです。単なるエピソードではなく、定期的なレビューの中で共有・可視化され、意思決定に活かされる仕組みにする必要があります。
KPIは「人を動かすための道具」。関係者全員が「自分ごと」として理解し、腹落ちできる必要があります。定量と定性、論理と感情、数値と言葉──これらをうまく行き来しながら、現場に手触り感のあるKPIを届けていくことが、組織の中でKPIを本当に機能させるための条件です。
プロダクトのライフサイクルに
応じたKPIの進化
KPIは一度決めたら永遠にそれを使うというものではありません。プロダクトのライフサイクルが進めば、フォーカスすべき指標も変化します。ある時期に決めたKPIをそのまま使い続ける企業は少なくありませんが、その結果、現場は「数字は追っているが、意味のある行動につながっていない」という事態に陥ります。
プロダクト開発においては、状況や目的に応じて、KPIも進化させる必要があります。プロダクトの初期には「PMF(プロダクト・マーケット・フィット)」の達成が最重要課題となるため、「初回体験で価値を感じたユーザーの割合」や「NPS」「ユーザーインタビューによるフィードバック件数」など、ユーザーとの適合性を測る指標が中心になります。
成長フェーズに入ると、今度は「継続利用」や「収益化」が重視されます。「7日間リテンション率」や「有料転換率」「ARPU(ユーザーあたり平均収益)」といった収益に直結するKPIが現場の意思決定を左右します。
成熟期には「効率性」や「拡張性」がテーマになります。「サーバーコストあたりの売上」「1機能あたりの維持コスト」「新規開発にかかる日数」など、組織全体としての持続可能性を示す指標へと重心が移っていきます。