
公務員の採用試験が“バーゲンセール”状態だ。今月発表された2025年度の「国家公務員一般職試験(大卒程度)」の合格倍率が過去最低を記録するなど、地方公務員も含めて一昔前までは想像もできないほどの広き門となっているのだ。一方で、給与を含めた大幅な待遇改善が急ピッチで進む中、社会人にとってもコスパの良い転職先として“穴場”となっている。特集『40歳・50歳・60歳から人生を一新! 資格&学歴 裏ワザ大全』の#21では、公務員採用試験の易化の実態と共に、狙い目の採用試験を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 宮原啓彰)
公務員試験の筆記倍率が急降下も
待遇改善で給与は大幅引き上げへ
人事院は8月12日、2025年度の「国家公務員採用一般職試験(大卒程度)」の合格者数を発表した。試験申込者数に対する合格倍率は2.9倍で、前年度から0.3ポイント低下し、現行の採用試験が始まった12年度以降で過去最低を記録した。また、本特集#14(『「国税専門官」採用試験の倍率が急降下!国家公務員の中では意外な高給&税理士資格を自動取得で老後も安泰、社会人の転職にもおススメ』)で見た「専門職試験」の方も、25年度の合格倍率は3.6倍と0.6ポイントも低下して、専門職が6職種から7職種に増えた20年度以降で最低となった。
そして、農学や土木、化学といった「技術系」に至っては、合格者数が1206人と、採用予定者数の1682人を大きく割り込み、2年連続で“定員割れ”するという緊急事態だ。
中高年が国家公務員試験と聞くと、いわゆる「キャリア組」である「国家公務員総合職」は言うに及ばず、「ノンキャリ組」である国家公務員一般職も、猛勉強が強いられる難関試験のイメージを抱いている人は少なくないだろう。
だが、目下の合格難易度は、この10年ほどで様変わりした。詳細なデータは次ページや本特集の他の記事に譲るが、例えば、国家公務員一般職(関東甲信越、大卒)採用試験の筆記試験倍率は、12年度の7.19倍から25年度は1.85倍へ、また、専門職でも前出の国税専門官の場合、12年度の3.38倍から25年度の1.21倍へと、それぞれ急降下している。
「倍率の急降下によって、筆記試験の合格最低点も軒並み大幅に下がっており、かつてのような高得点を狙う猛勉強は必要なく、効率よく勉強すれば3カ月程度の勉強期間でも合格できる試験が増えている」と、オンライン公務員予備校「公務員のライト」を運営するキャリアードの三木拓也代表取締役は言う。
この空前の公務員採用試験の易化は、国家公務員に限った話ではない。地方公務員の採用試験も同様か、それ以上に簡単になっている。背景にあるのは、もちろん就職戦線における「超売り手市場」だ。今春卒業の大学生の就職率98%は、過去最高だった昨年に次ぐ過去2番目の高さ。人事院もいうように「技術系を中心に民間企業との人材獲得競争で苦戦を強いられている」わけだ。
結果、民間企業と比べて見劣りしていた公務員給与の大幅な引き上げが相次いでいる。人事院は今月、国家公務員(行政職)の月給の3.62%引き上げを勧告。3%超の引き上げは1991年以来、34年ぶりで、本府省(中央省庁)勤務の国家公務員の給与基準は、これまでの「東京23区の従業員500人以上」の企業から、「従業員1000人以上」の大企業に対応するよう見直される。
公務員のメリットは給与面だけではない。例えば育児休業の取得率を見ても、民間企業の男性が30%(23年度)なのに対し、国家公務員(一般職)は81%、地方公務員(一般行政部門)は66%だ。その上、育休期間の方も民間企業は子どもの年齢が原則1歳までなのに対し、公務員の方は最長3歳まで可能だ。
待遇の大幅な改善で魅力が増す公務員だが、気になるのは受験できる年齢の制限だろう。下図は、主な公務員試験の種類と年齢制限のフローチャートだ。
民間企業でいう「新卒採用」に相当する試験は30歳(受験年の4月1日時点で29歳)までが主流。
だが、例えば国家一般職(大卒程度)の場合、採用試験に最終合格して「採用候補者名簿」に記載されると、その有効期間は最終合格者発表日から5年間もある。つまり、仮に受験可能年齢ギリギリの30歳で受験して合格すれば、35歳まで公務員を目指すことが可能になるわけだ。
民間企業における大卒者の3年以内離職率が現在、34.9%(21年3月卒業者)にも上ることを思えば、30歳未満の読者はもちろん、30歳未満の子どもがいるのであれば、今は公務員への転職を考えていなくても、5年間の期限付きの“お守り”や“保険”代わりとしての国家公務員採用試験の受験は検討に値するだろう。
次ページでは、「公務員のライト」の協力の下、30歳を超えても「新卒」として受験できる“穴場”の公務員採用試験に加え、国家公務員や各専門職、さらに東京都など地方公務員の過去14年の筆記試験の倍率を含めた合格倍率の推移を大公開。コスパ、タイパの良い試験を探せるので必見だ。
なお、中高年を含めた30歳を大幅に超える人向けの公務員試験については、本特集の別の記事で詳しく見る。