
飲食店向けにモバイルオーダーを展開し急成長するスタートアップ、ダイニー。同社が6月に実施した大規模な退職勧奨について、山田真央CEOは「弁護士や社労士と連携し、適法に進めた」と説明していた。だがその実態は、対象者にいきなり退職を求め、提示したのは超少額の特別退職金。異例の短期間で退職合意を迫り、拒否すれば「追い出し部屋」へ異動させる違法性の高いプロセスだったことがダイヤモンド編集部の取材で分かった。新連載『スタートアップ最前線』内の特集『ダイニー“AIリストラ”の虚構』では複数回にわたり、ダイニーが敢行した退職勧奨の真相を報じる。初回の本稿では、独自に入手した退職合意書や複数の対象者への取材を基に、その全容を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)
実態は違法性の高い「退職強要」
退職を拒んだ社員は排除の標的に
飲食業界のインフラを掲げ、急成長を遂げてきたスタートアップが揺れている。
2018年に山田真央CEO(最高経営責任者)が創業したダイニーは、QRコードをスマートフォンで読み取り、LINEから料理を注文できるモバイルオーダーを飲食店に展開する。来店・注文データを活用してリピーター分析やメニュー最適化、再来店を促す施策を可能にし、導入数は約3000店舗に拡大。飲食業界のDXをけん引する気鋭のスタートアップとして脚光を浴びた。
その勢いは資金調達にも表れている。24年9月のシリーズBラウンドでは74.6億円を調達し、ベッセマー・ベンチャー・パートナーズとヒルハウス・インベストメント・マネジメントがリード投資家に名を連ねた。世界的な名門ベンチャーキャピタル(VC)も期待を寄せる有望株と目されていたのだ。
しかし、トップの言動が引き金となり、その行方に暗雲が漂っている。
山田CEOは8月6日、「レイオフを伝えるという仕事」と題したnoteを公開。生成AIの進展を理由に社員の約2割に退職勧奨を実施した経緯を説明したが、対象者への配慮を欠く内容がSNSで炎上した。
その余波は社内にも及ぶ。ある社員は「突然の大量リストラに加え、それを誇らしげに語る社長のnoteが火に油を注いだ。社内の士気は一気に低下し、社長の下では働けないと転職活動を始める人も出ている」と話す。
こうした混乱の背景には、リストラの手続き上の問題がある。表向きは退職勧奨とされているが、実態は違法性の高い「退職強要」だと複数の対象者が証言しているのだ。
その一人は「退職勧奨に関する事前説明もなく急に呼び出され、何の話かも分からないまま退職合意書を突き付けられた。退職を判断する十分な期間もなく、拒めば今の仕事を続けられないことを示唆されたため、多くの社員が超少額の特別退職金で合意せざるを得ない状況に追い込まれていた」と打ち明ける。
本来、退職勧奨は本人の自由な意思決定に基づく合意が大前提である。しかしダイニーの手法は、その原則を大きく逸脱していた。
次ページでは、ダイヤモンド編集部が入手した退職合意書を基に、超少額の特別退職金の金額や合意を迫られた期間、対象者の業務を即刻停止した手法など“恐怖の退職パッケージ”の全貌、さらに退職を拒んだ現役社員が「追い出し部屋」で今なお直面している排除の実態を明かす。加えて、スタートアップの退職勧奨に詳しい弁護士が指摘する手続きの違法性や、山田CEOのnoteが秘密保持義務違反に該当し得る理由を詳らかにする。