
AI議事録作成サービスで注目を集め、鳴り物入りで東証グロース市場に上場したオルツ。しかし、上場から1年足らずで不正会計が発覚し、株価は100分の1以下に暴落、上場廃止に追い込まれた。急成長の裏に隠されていたのは、製品を介さない巧妙な「資金の循環取引」。監査法人や主幹事証券、取引所の審査をもすり抜けた驚きの手口とは。長期連載『スタートアップ最前線』では、2回にわたりオルツの不正会計の真相に迫る。今回は第三者委員会の報告書に基に、循環取引の全体像とオルツが監査や上場審査をいかに切り抜けたかを検証する。(ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
気鋭のAIスタートアップが突然の上場廃止
公開価格の108分の1、投資家に悪夢
東京証券取引所グロース市場に上場していたスタートアップのオルツは不正会計が明るみに出て8月31日付で上場廃止となった。最後の取引日となった8月29日の終値はわずか5円。
2024年10月11日に上場した同社の公開価格は540円だから、108分の1の水準にまで下落したことになる。上場時の財務諸表を信じて購入した投資家にとってはたまったものではない。
オルツは株主総会議事録作成サービス「AI GIJIROKU(AI議事録)」を主力商品とする会社だ。上場後、株価は上昇し12月2日には823円の高値を付けていた。
その後、下落基調に転じ4月には400円台で推移していたが、4月25日にオルツ自身が公表したプレスリリースをきっかけに株価は急落する。
そのプレスリリースには、売り上げの過大計上の疑いから証券取引等監視委員会から調査を受けており、4月25日付でその調査を行う第三者委員会を設置すると記されていた。
プレスリリース発表後の最初の取引となった4月28日、翌29日と同社の株価はストップ安となり、5月1日には113円まで下落した。
7月28日には、売り上げの過大計上、不正会計の実態を調査した第三者委員会の報告書が公表され、30日に民事再生法を申請、事実上の倒産となり上場廃止に追い込まれた。現時点で再建を請け負うスポンサーは現れていない。
オルツは公表ベースの財務諸表の上では急成長を続けてきた(下図参照)。
だが、実はその売り上げの大半が循環取引による架空計上によるものだった。次ページでは、第三者委員会の報告書を基にオルツの循環取引の仕組み、事実と違う資料などの作成で上場に監査や審査を潜り抜けてきた過程を解き明かす。