スタートアップ最前線#7Photo by Yasutaka Nagayoshi

連載『スタートアップ最前線』ではこれまで、未上場の急成長スタートアップ、ダイニーにおける違法性の高い退職勧奨の実態を報じてきた。だが、同様の問題は上場企業でも起きている。創業からわずか7年で上場し、DX・AI支援で高成長を続けるジーニーだ。同社は対象者の業務を取り上げた上で虚偽の整理解雇通知を示唆し、法的に会社側が勝てば経歴に傷が付くと告げて自主退職を迫るなど、違法性の高い退職勧奨を敢行していたことが分かった。本稿では、独自に入手した人事部トップと社員との面談記録を基に、その違法性を明らかにする。また、この点について質問書を送付したところ、工藤智昭社長自らが取材に応じ、反省の弁と今後の対応策を語った。(ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)

プライム市場上場を目指すジーニー
“退職強要疑惑”で社長自ら取材を申し出

 本連載では、ダイニーにおける違法性の高い退職勧奨の実態を報じてきた。

 同社で退職勧奨を受けた社員の多くは、面談直後にGoogleアカウントなどの業務ツールを停止され、わずか1週間程度で退職を迫られたケースもあった。面談前までメールをしていた顧客に返信もできず、業務は一方的に別の社員に引き継がれ、後に精神疾患を発症した人もいる。

 こうした退職強要の問題は、ダイニーのような未上場のスタートアップにとどまらない。上場企業でも、違法性の高い勧奨行為で社員を退職に追い込むケースが判明した。ジーニーだ。

 同社は創業からわずか7年で上場を果たし、グロース市場で存在感を高めるDX(デジタルトランスフォーメーション)・AI(人工知能)支援企業だ。ウェブサイトやスマートフォンアプリ上で、ユーザーごとに最適な広告を瞬時に表示させる技術を活用し、インターネットメディアや広告主の収益最大化を支援するプラットフォームを提供している。2025年3月期の売上収益は113.2億円と、前年比41%増。積極的なM&A(企業の合併・買収)を進め、プライム市場入りを目前に控える成長企業と目されていた。

 そんなさなか、ジーニーでは違法性の高い退職勧奨が行われていたのだ。

 ダイヤモンド編集部は、ジーニーで実際に行われた退職勧奨の面談記録を独自に入手。その内容は、人事部トップ自らが「上場企業としてのスタンスやプライム市場の観点から見ても、リスクのある話をしているのは間違いない」と認めた上で、「(退職勧奨の対象者は)求められていない環境で過ごすうちに諦める人がほとんどだ。社内に残りたいと言い続けて残った人は、基本的にいない」と圧力をかける、生々しい発言の数々が残されていた。

 次ページでは、実際の面談内容を公開し、根拠のない整理解雇通知を示唆し、社員に退職を迫ったやりとりの詳細を明らかにした上で、違法性の高い点を精査する。

 また、退職勧奨の事実確認に関する質問書をジーニーに送付したところ、「根拠なく整理解雇通知を示唆した事実はございません」との回答書が届いた。併せて、工藤智昭社長自らが取材に応じたいと申し出があり、ジーニーの顧問弁護士同席の下、直接の取材が実現した。

 取材の席で、工藤社長は回答書の文面とは異なり、自らの言葉で反省の意を示す。その内容は、全上場企業が自社の姿勢を省みる契機となるものだった。