第2次トランプ政権以降、米ドルの基軸通貨としての地位に疑念を持たれるようになってきた第2次トランプ政権以降、米ドルの基軸通貨としての地位に疑念を持たれるようになってきた Photo:Nelson_A_Ishikawa/gettyimages

関税など「米国第一」の政策を進める米トランプ政権下で、“ドル離れ”が進むとの警戒感が強まっている。前日本銀行総裁の黒田東彦氏が執筆するダイヤモンド・オンラインの連載『黒田東彦の世界と経済の読み解き方』の今回のテーマは基軸通貨と米ドル。ドルの地位を揺るがしかねない3要素とは?

疑念を持たれるようになった
米ドルの基軸通貨としての地位

 国際的に広く使われている通貨を「基軸通貨」と呼ぶ。それは言葉通り、一つの通貨に収斂(しゅうれん)する。理由はシンプルに便利だからだ。

 例えば100の国があり、国際的な取引をするために99の外貨を持たねばならない状況を想像すれば不便さが分かるだろう。一つの国際通貨が仲介してくれた方が、はるかに楽である。

 基軸通貨の地位は世界経済の変転とともに移り変わってきた。19世紀後半は金本位制の下、英ポンドが基軸通貨だった。

 そして第 1次世界大戦で金本位制が崩壊した後、第2次世界大戦を迎えるまでは、ブロック経済化が進んで国際通貨制度も混乱し、英ポンドや米ドル、仏フラン、日本円など複数の通貨が国際的に流通して不便であった。

 第2次大戦後は、国際通貨基金(IMF)体制の下で、米ドルが唯一の国際通貨として広く利用されている。その背景には米国経済の圧倒的な規模や広範な金融市場、国際収支の黒字、為替や物価の安定などがあった。

 ただ、1960年代のベトナム戦争やインフレなどによる国際収支の悪化により、基軸通貨ドルを支える一つの柱であった金兌換(だかん)が、1971年のニクソン・ショックで停止されたことで、一時混乱を招いた。しかし結局、ドルに代わる基軸通貨は現れず、ドルの基軸通貨としての地位は揺るがなかった。

 しかし、ここにきて、ドルの基軸通貨としての地位が、疑念を持って見られるようになってきた。