ウクライナ戦争の和平交渉を巡って8月に会談した米国のトランプ大統領(右)とロシアのプーチン大統領ウクライナ戦争の和平交渉を巡って8月に会談した米国のトランプ大統領(右)とロシアのプーチン大統領。世界ではいまだ対立が続いている Photo:Andrew Harnik/gettyimages

ソ連崩壊後は世界に民主主義が広がると論じた『歴史の終わり』がベストセラーとなって30数年。世界は対立が続き、米国では第2次トランプ政権が誕生し民主主義の力が揺らいでいる。前日本銀行総裁の黒田東彦氏が執筆するダイヤモンド・オンラインの連載『黒田東彦の世界と経済の読み解き方』の今回のテーマは、「『歴史の終わり』の終わり」。黒田氏が論じる民主主義の揺らぎと分断が進む世界の行く先とは?

ソ連崩壊で民主主義が世界に広がる
フクヤマの『歴史の終わり』の終わり

 米国の政治学者フランシス・フクヤマが、1992年に著書『歴史の終わり』で、ソ連崩壊後の世界は自由経済と民主主義が広がり、それを超える社会制度の進歩はないので、「歴史の終わり」だと主張して衝撃を与えて30数年を経たが、世界はそのようにならなかった。

 むしろ、フクヤマの師である米国の政治学者サミュエル・ハンチントンが、96年に著した『文明の衝突』に類似した世界になったようにもみえる。

 ただ、同書が論じた西欧世界とイスラム世界との全面的な衝突というより、シーア派とスンニー派の対立にイスラエルと米国が絡む中東地域紛争に過ぎず、世界全体は、社会主義経済で独裁国家の中国とロシアが一体となって、自由経済と民主主義の米欧日に対峙(たいじ)している状況にある。

 その意味で、フクヤマの主張した「歴史の終わり」は終わったといえよう。われわれは、今や、その先を見通す必要があるのだろう。