1970年11月25日、乱入した東京・市谷の陸上自衛隊東部方面総監部のバルコニーで演説する三島由紀夫 Photo:JIJI
2025年は三島由紀夫の生誕から100年。三島が活躍した1949年から70年の日本は高度経済成長期とも重なる。前日本銀行総裁の黒田東彦氏が執筆するダイヤモンド・オンラインの連載『黒田東彦の世界と経済の読み解き方』の今回のテーマは、「三島由紀夫の時代」。黒田氏が三島を通じて読み解く日本経済や安全保障の変化や、影響を受けた出来事とは。
黒田東彦が見た文豪の実像
「三島由紀夫の時代」に受けた影響
2025年は三島由紀夫の生誕から100年である。
私が大蔵省(現財務省)の大臣官房秘書課に配属された1967、68年ごろだと思うが、ある先輩に新宿のアングラ劇場に連れていってもらったことがある。
当時のアングラ劇場では前衛的な劇がはやっており、三島の劇が上演されていた。一幕の短い劇が終了したところで、会場の一番前にスポットライトが当たった。そして花束を抱えた三島が舞台に上がり、主演者に渡した。
私は三島の著作のほとんどを読んでいたが、三島本人を見たのはその時が初めてであった。身長は160センチそこそこのようだったが、ボクシングやボディービルで鍛えた筋肉質の体躯に、短く刈った髪が印象的であった。そして、著作から受ける印象とは全く違うなと思ったことを覚えている。
三島は49年に上梓した『仮面の告白』で一躍文壇の寵児となり、社会へも影響を与え始め、さまざまな活動をした挙げ句、70年に自決した。
日本経済や社会が大きく変動した時期とも重なる49年から70年までは、私にとって「三島由紀夫の時代」だといえ、私自身も影響を受けた出来事がいくつかある。







