短編「愛の奇蹟」で描いた
完璧なハッピーエンド
手塚調タッチとの格闘以降、ずっと絵柄に悩んでいたのが、このあたりからようやく自由になった感じがしました。担当編集者が女性というのも珍しかった。「少女フレンド」編集部に女性はゼロでしたから。
「美しい十代」(学習研究社、現Gakken)に掲載した短編「愛の奇蹟」(1968年)も時を超えた男女の愛を描く会心作です。

――若い夫が崖から転落し、それを知らぬ妻は夫の帰りをいつまでも待ち続ける。何十年も経ち、雪中で冷凍状態だった夫は救出され、若い姿のままよみがえる。一方、年老いてしまった妻は、夫と顔を合わせることができない……。SF的な道具を使わずSFを描いた佳作で、明るい結末も印象的。『まんが劇画ゼミ(6)』(集英社、1980年)で、楳図さんは自選ベスト5のトップに挙げている。なお、この作品は「おろち」第2話「骨」(後述)と構造が似ているのも興味深い。
僕は時々、完璧なハッピーエンドを描きたくなるのです。
創刊されたばかりの「ビッグコミック」(小学館)からも依頼が来て、「ほくろ」(1968年)を最初に、「イアラ」(70年)につながる一連の異色短編シリーズを描くことになりました。1968年の夏頃に仕事場を東京都豊島区目白に移し、僕の人生で一番忙しい時期が始まります。
この頃、同じ小学館の「週刊少年サンデー」からも依頼があり、スケジュール的にはとうに限界を超えていましたが、引き受けました。しかし、連載開始直前になっても、「おろち」というタイトルしか決まっていませんでした。