私が了解すると、オールスターのときに坂本選手を呼び出し「オフの練習で宮本の自主トレに参加して教えてもらえ」のひと言で決まりました。

若かりし頃の坂本は
キャッチボールでも横振り

 ヤクルトの選手とともに松山でやっていた自主キャンプに、坂本選手が来ました。

 グラウンドでのプレーは見ていたので、だいたいの癖は分かっていました。決して雑にやっているわけではないのですが、思った通り、キャッチボールでのスローイングは横振りでした。

 キャッチボールで直っても、実際にゴロを捕球してからのスローイングになると、横振りになります。これが試合になれば尚更横振りになるでしょう。雑に見える最大の原因です。

 正直に言って、1週間ぐらいの練習で、長年染み付いた癖は直りません。毎年、自主キャンプに参加すれば直るかもしれないというぐらいに思っていました。でも、坂本選手はそのとき限りで自主キャンプには参加しませんでした。

 翌年からのプレーを見ても、縦振りを意識しているのは感じましたが、劇的に変わった感じはしませんでした。しかし、それから徐々にできるようになっていきました。教えてもすぐに元に戻ったり、忘れてしまう選手は多いのですが、坂本選手は違いました。

 それからというもの、坂本選手は私を見かけるときちんと挨拶に来てくれました。それから5年ぐらい経って、仲介してくれた記者に坂本選手は「あのときの練習がなければ、今のボクはなかったです。すぐにできるようにはなりませんでしたが、2年ぐらい経ってなんとなくですが、できるようになってきたと思っています」と話したそうです。

 当時はまだ、他球団の選手と一緒に合同自主トレをやる習慣はありませんでした。当時はライバル球団の選手に教えていいのか?という疑問がわずかながらありました。

 それでも坂本選手自身が縦振りの重要性を理解し、後輩たちに伝えていってくれれば、野球界の底上げになると思って教えました。今では坂本選手に教えたことを誇りに思っています。