ビジネスパーソン写真はイメージです Photo:PIXTA

かんぽ生命の不適切営業問題が表面化したことで、それまで多くの人が抱いてきた「身近で親切、信頼できる」というイメージは地に落ちた。2017年に入社した私は、かんぽ営業の現場で何を見て、何を考え、なぜ退職を決断したのか。すべて実体験したありのままの事実を紹介しよう。
私は研修を終えると、配属されたY郵便局でコンピュータをいじり、ゆうちょの口座を持っている世帯をピックアップ(この上司の指示がとんでもないルール違反であるのを知るのは少しあとの話だ)。10件ほどメモをしたら準備完了。外回り局員用のバイクに乗り、戸別訪問に突撃した。
※この記事は、半沢直助『かんぽ生命びくびく日記』(三五館シンシャ)の一部を抜粋・編集したものです。登場する人物・団体名は仮名です。

某月某日 初荷
定額貯金360万円作成

 1軒目のお宅。局のパソコンから書き写してきたメモを見返す。

「通常貯金残高867万円/定額貯金残高200万円」の高橋夏男さんだ。

 銀行で長らく営業職に従事してきたことから、戸別訪問に抵抗感はない。チャイムを押して、「Y郵便局の半沢と申します」と名乗る。玄関は簡単に開いた。ただ、出てきた中年女性は手に印鑑*を持っている。ゆうパックの配達と勘違いしているのだ。

「いえ、わたくし、配達じゃないんです。金融渉外部っていう部署の者でして、定額貯金の営業に回っているんです」

「あら、そうなの。で、何?」

「今、ゆうちょに通常貯金をお持ちですよね。それを定額貯金に回していただけないでしょうか? 手続きは簡単でして、すぐに伝票1枚でできちゃいます」

「そういうことはお父さんに相談しないといけないから……」

 ご主人は不在とのことで、丁寧に頭を下げて辞去する。1軒目は撃沈である。

 ただ、営業で断られるのは前職までで嫌というほど経験していてショックはない。気を取り直して2軒目にバイクを走らせる。

「通常貯金残高667万円/定額貯金残高100万円」の宮下信子さんのお宅。かなり老朽化したアパートの3階、階段は錆だらけで歩くとギシギシと音を立てる(でも貯金はたっぷり持っている)。チャイムも見当たらないので、そのままドアをノック。

「こんにちは、Y郵便局の半沢と申します」

 またすぐにドアが開く。銀行や信金時代はここまでスムーズにはいかなかった*。さすがに郵便局の看板はすごい。

 60代と思われる白髪の女性。たぶん宮下信子さん本人だろう。