「このあたりの小学校ですか?」
「Z市に住んでるから、Z市にある私立の小学校に行ってるのよ」
「へえ~、私立ですか。すごい! うちは公立ですけど、結構生意気になってきて。この前も食事の後片付けしなさいって注意したら、『パパは嫌い』って言われちゃって」
おどけたように話すと、「うちの孫もねえ」と身を乗り出す。研修で学んだ、お客と仲良くなることの重要さが身に染みてわかる。“小学生あるある”でしばし盛りあがったあと、話を切り替える。
「それで定期なんですけれど、どうでしょうか? なんとか私の契約第1号になっていただきたくて」
「うーん」と少し考えているが、表情はやわらかい。通常貯金から定額貯金に預け替えると、一定期間(6カ月)は引き出しができなくなる*が、全額でなければ問題はないはずだ。あと一押しでなんとかなる。
ティッシュやサランラップ、洗剤なんかの
詰め合わせ、どっさり持ってきます
「お持ちの通常貯金の一部で構いませんので預け替えていただくと、いろいろな日用品をご用意できるんです。じつは個数が決まってるわけじゃないので、ティッシュやサランラップ、洗剤なんかの詰め合わせ、どっさり持ってきます」
「そうなの。それじゃあ、お願いしようかしら」
よっし! 心の中でガッツポーズが出た。1000万円の通常貯金から360万円を定額貯金へ預け替え。雑談である程度の信頼関係を築き、日用品でプッシュして押し切った。私の「初荷」だ。
預金の預け替えの際、金利の多寡などのメリットを重視する人もいるだろう。かくいう私もそのひとりだ。
だが、そうしたメリットを度外視する人たちも一定数いる。とくに年配の人にとって、金利などは大きな意味を持たない。それよりも、担当者と会話に花を咲かせ、信頼できる人物かどうかを見極めることのほうが大切だったりする。
銀行員時代にはパワーセールスが売りと自負していたが、商品を買う買わないを決めるのはお客だ。お客を気分よくさせるほうが早い。とくに郵便局のお客とは仲良くなることが契約への最短ルートなのだと痛感する。