
政府が6月に発表した「骨太の方針2025」で、中央銀行デジタル通貨(CBDC)について、「法制面や発行の可能性の検討を進める」との方針が明記された。前日本銀行総裁の黒田東彦氏が執筆するダイヤモンド・オンラインの連載『黒田東彦の世界と経済の読み解き方』の今回のテーマは、CBDCと法制度。新たな決済手段の登場は、銀行や民法の契約の自由にどんな変化をもたらすのか。
東大批判の「東西両京の大学」でも
高く評価された民法起草者の3教授
斬馬剣禅というペンネームで、政治学者の五来欣造氏が東京帝国大学法科大学卒業後に読売新聞で書いた連載をまとめた『東西両京の大学』という本が、無茶苦茶に面白い。
私は講談社学術文庫(1988年刊行)で読んだのだが、原著が紙面で連載されたのは明治36(1903)年であり、東京帝国大学(現東京大学)と京都帝国大学(現京都大学)を比較して、前者が「実用的人物」を輩出しているのに対し、後者が「学者的人物」を養成しているなどと述べている。
さらに前者を米イェール大学や英オックスフォード大学、後者を米ハーバード大学や英ケンブリッジ大学に例えている。実際、現在までに東大出身の総理大臣は19人に対して京大出身は5人。一方で科学系ノーベル賞受賞者は、京大が8人に対して東大が5人となっている(旧制高等学校、帝国大学時代も含む)。
また斬馬は、東京帝国大学と京都帝国大学の試験制度などに違いがあり、前者の学生が多くの必修科目の試験によって勉強を強いられているのに対し、後者の学生が自由な学内で選択科目の下で自主的に勉強していると論じている。要するに、前者が型にはめた官僚や実業家を生み出しているのに対し、後者が学者や革新的技術者を生み出しているというわけである。
斬馬は、両大学の法学者の評価についても特に東京帝国大学に厳しく、京都帝国大学に甘い。だが、民法起草者の穂積陳重、富井政章、梅謙次郎という東京帝国大学法学部の3教授は評価しており、特に梅教授の立法能力を高く評価している。
梅教授は仏リヨン大学の博士課程を首席で博士号を授与され、大学に残らないかと勧められたものの、独ベルリン大学に留学して帰国し、帝国大学法科大学教授になり、内閣法制局長官や文部省総務長官なども務めた人物である。
もともと民法は、明治時代に来日したフランス法学者のギュスターヴ・ボアソナードが立案したものが1890年に公布されたものの否定され、施行されなかった。そして3教授の起草した民法が1896年に公布され、これが現行民法なのである(ただし、親族・相続法は戦後、一部が改正された)。
その意味で、斬馬が記述した3教授のうち、穂積が英独に留学したのに対し、富井・梅の2教授がフランスに留学した仏民法の権威であり、現行民法はボアソナードの旧民法とは異なり、ドイツ民法の影響が強いというのは誤解だろう。
実際、梅教授の『民法要義』を読んでみたところ、仏民法と独民法のどちらにも傾いているという印象は受けなかった。