株主総会2025Photo by Takeshi Shigeishi

東証スタンダード上場の大盛工業が29日、定時株主総会を開く。同社を巡っては社外取締役の熊谷恵佑監査等委員が経営陣の不正疑惑を告発し、その内容を監査報告書の「付記事項」として総会で公開するよう求めていた(『【独自】大盛工業の監査等委員が異例の内部告発!不透明な資金調達の「調査を妨害した」と経営陣の再任反対を表明へ』参照)が、会社側は対応していない。事実上の“黙殺”は、会社法や東証の上場規定に違反する可能性もある。熊谷氏がダイヤモンド編集部の取材に応じ、特集『株主総会2025』の本稿で大盛工業による「組織的隠蔽(いんぺい)」の実態を明かした。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

調査妨害の経緯と疑義事項を明示
これは監査機能を守るための「責務」だ

――今月29日に開かれる大盛工業の株主総会で、監査報告書に付記事項を記載する決断に至った最大の理由は何でしょうか。

 当初から付記事項の記載を目的としていたわけではありません。

 会社にとって必要と考える調査を私が進めようとしたところ、会社側から拒まれ、資料提出を長期間妨げられるなど、極めて強い抵抗を受けたことがきっかけです。このような事態は、上場企業の監査体制としては到底容認できないものだからです。

 監査等委員は、会社法上の監査権限に基づき、取締役の職務執行について調査し、監査意見を表明する責任があります。調査が妨げられる状況を看過して適正意見を出せば、「不都合な調査には応じなくてよい」という極めて悪質な前例を作ってしまう。これはコーポレートガバナンスの健全な運用を根底から揺るがす重大な問題です。

 例えば会計監査においても、重要な監査手続きが実施できなければ「意見の限定」を付すことを検討するのが当然です。同様に業務監査を担う監査等委員も、職務執行を適切に監査するために必要な手続きを阻まれた場合、その旨を明示する責任があります。

 今回は他の監査等委員と見解が異なり、監査報告書全体の意見に限定は加えられませんでした。しかし少なくとも私一人は、調査妨害の経緯と疑義事項を明示する必要があると判断しました。これは個人的な対立ではなく、制度としての監査機能を守るための最低限の責務です。

――問題の発端は、大盛工業が2022年7月に行った新株予約権の発行による資金調達にあります。この資金調達について、具体的に不正の疑義があると確信されたのはいつですか。

 25年3月に株式関連の調査を開始し、新株予約権の引受先であるマイルストーン・キャピタル・マネジメントへの新株予約権発行に関する詳細資料を精査した時点です。

 そもそも24年の段階で、マイルストーンと貸株契約を結んだプラス社が関連当事者ではないかと疑問を呈し、監査等委員会内や管理部門の取締役に対し確認を求めたこともあります。しかし、当時は取引実態が明確に存在しなかったことから、内部統制上の関連当事者管理の不備にとどまる問題と捉えていました。

 その後、25年1月に私自身について今後は再任しない旨の通告を受け、任期中に問題がある取引などの見逃しがなかったかを確認するために過去の取引を再レビューした結果、この新株予約権発行の「問題の本質」が見えてきたのです。

不透明な資金調達と調査妨害。そこから見えてきた「問題の本質」とは何か。次ページに続くインタビューでその全貌をひもとき、会社側に事実上“黙殺”されたままの熊谷氏が、29日の株主総会当日に繰り出す“一手”を明らかにする。