「信じられない…。まさか、こんなことがあるなんて――」

 その封筒の中身は生命保険会社からの通知でした。生命保険の被保険者は亡くなった義父・政夫さん。受取人欄には「田中 真由美」と記されていたのです。保険金額は驚愕(きょうがく)の5000万円という数字でした。

なぜ義父は生命保険金を
真由美さんに残したのか

 政夫さんは糖尿病が発覚した時、真由美さんに再び重い介護を背負わせることになる、と暗い気持ちを抱えました。長男の智一さんはモーレツな働き方だったため介護に協力することは一切なく、介護に疲れた真由美さんが真夜中にリビングの机に突っ伏し、泣いている姿を見たことがあったのです。

「また迷惑をかけてしまう……」

 通院の付き添いから始まり、糖尿病患者向けの食事メニューも一生懸命作ってくれる真由美さんに、政夫さんは何か最期にできることはないかと考えていました。

「お義父(とう)さんはとても頑固な人で、最初の頃は“人に世話をされるのは嫌だ”って言っていたんです。でも、根は優しい人だったので『いつもありがとうな』って言ってくれました」

 真由美さんへの「最期のギフト」として政夫さんは財産を残したいと考えていましたが、預貯金が少なく、住まいは智一さんが相続予定であり、高額の資産をお持ちではありませんでした。

 そこで、自身が亡くなった時の生命保険金の受取人を、真由美さんへと変更していたのです。生命保険は法的には相続財産に含まれないため、この方法なら、ご自身が亡くなり相続が始まっても、法定相続人に気を使うことなく真由美さんがお金を受け取れます。

「お義父さん、最期にありがとう」。真由美さんは生命保険金の証書を見つめながら、長年の苦労が報われたと思ったそうです。

法定相続人ではない「長男の嫁」が
生命保険金を受け取るときには注意点も

 今回のケースでは、真由美さんは「法定相続人」ではありません。法定相続人とは、民法上に定められた相続財産を受け取れる人のことです。配偶者・子・親・兄弟姉妹などを指します。

 長男の妻は法定相続人ではないため、相続財産を直接相続することはできません。ただし、生命保険金は相続財産とは別扱いとなります。

 被保険者が亡くなった時点で受取人に直接支払われるため、相続人以外であっても受け取る権利が認められます。遺産分割協議とは関係なく受け取れるため、介護に従事した方への「最期のギフト」として今注目が高まっています。

 しかし、このような財産の残し方には注意点も。相続問題に詳しい虎ノ門法律経済事務所横須賀支店の中村賢史郎弁護士に生命保険金を法定相続人以外が受け取る際の注意点について聞きました。