『ターミネーター』の人類滅亡リスクへの懸念

 期待が広がる一方で、ロボット実用化への不安も高まっている。まず、雇用機会が奪われるのではないかという懸念だ。工場や物流施設、さらには医療や介護の現場でロボットが稼働すれば、その分、単純労働の機会は減る。状況次第では労働者のデモが起きるかもしれない。

 ロボットが実用化されても、未曽有の事象が発生した際の安全確保など、人間の判断が必要な部分は残るはずだ。自然災害で電力供給が停止した場合、人間でなければできないことは増える。ロボットが想定外の動作を行い損害が発生した場合、誰が責任を持つか、どう補償するかも明確ではない。

 サイバー攻撃でロボットのプログラムが書き換えられるリスクもある。セキュリティーソフトウエアの更新エラーなどでプログラムにバグが生じ、想定外の動作をロボットが行う恐れも残る。ロボットの暴走をどう止めるか、国際的な規格の策定は急務だ。

 軍事利用については23年12月、国連総会が「自律型致死兵器システム」(LAWS: Lethal Autonomous Weapons Systems)への対応が急務と決議した。LAWSは、人間の関与なく機械が攻撃目標を定め、攻撃する能力を持つデバイスをいう。

 国連が懸念するのは、LAWSの倫理的問題、その導入による戦争勃発リスク、誤作動による攻撃の発生などだ。映画『ターミネーター』のような状況が起きるリスクは排除できない。AI、ロボットは人類存続の危機をもたらすと警鐘を鳴らす同分野の専門家もいる。

 現在は懸念よりも成長期待が先行する形で競争が激化している。競争が進んだ後、検索エンジンやAIのように、シェアを押さえた特定企業に世界が依存する構図ができる可能性が高い。

 わが国企業はそうした展開を念頭に、安心安全なロボットの製造技術を磨き、その利用を支える国際規格の策定に能動的に取り組まなければならない。それは中長期的な日本経済の在り方に、かなりのインパクトをもたらすはずだ。

真壁昭夫プロフィール